2004年4月20日(火) 「自己責任」論という名の情報操作・ゴマカシ・検閲(宗補雑記帳よりの復活ブログ)
イラクの武装グループにより拘束された5人の日本人が解放され喜んでいたら、彼らが帰国する前から問題のすり替えが政府とマスメディアによって始まった。その結果、「自己責任」論(岡本行夫前首相補佐官)や「自業自得」なる言い方(石原慎太郎都知事)が強調され、解放された5人や彼らの家族に対するバッシングは当然のような論調がまかり通っている。在外公館の最も重要な役割は邦人の保護だということを忘れたのだろうか。
拘束された5人とその家族は「みなさんにご迷惑をおかけして申し訳ありません」と何度も謝罪させられている。しかし、彼らはそんな謝り方をする必要はさらさらない。私自身は彼らによって迷惑させられたとは全く感じていないからだ。イラクの人々が自衛隊の撤退を望んでいるということを改めて実感できたことからしても、彼らに感謝する方が筋だと思っている。
彼らをバッシングする日本人に聞いてみたい。あなたは一体どんな迷惑を具体的に被ったというのか。人質救出のために奔走しなければならなかった政府首脳、外務官僚、国会議員、政府職員、関係者で迷惑したと感じている人が一体どのくらいいるのだろう。フジサンケイ・グループの新聞は数億円の税金がかかったと、人質や家族を暗に非難する記事を書くことに熱を上げている。しかし、よく考えてみよう。小学生にもよくわかる物事の順番があり、こうした「自己責任」論が本質のすり替えでありゴマカシだとわかる。
日本人5人が身柄を拘束され、生命に危害が及ぶ可能性があったのは、小泉首相が自衛隊をイラクに派兵した事実によって引き起こされた誘拐事件ではないのか。自衛隊という名の武装した軍隊(武装した相手を武力によって倒す軍事訓練を受けた兵力)が、イラクという外国の領土に派兵され、駐屯することで日本人のNGO活動家、報道陣、外交官などの生命が不必要に危険にさらされることになった結果なのは明らかではないか。
マスメディアが批判するべき相手は、危機管理能力の無さから、昨年二人の日本人外交官を殺されても何の責任も取らない政府首脳と外務省の方ではないのか。奥参事官と井ノ上書記官の死は、小泉首相のアメリカ追髄外交が生んだ避けることのできた死ではなかったのか。
さらに言えば、真の友人としてアメリカ政府の国際法を無視した身勝手な他国の侵略を諭し、米英軍によるイラク人の無差別殺戮に日本が直接間接に加担するために最大の努力を払い、 1万人をこえるといわれるイラク国民の無駄死にを避ける努力をしなかったためではないのだろうか。
日本政府の外交で迷惑千万、本質的な損害を被ったのは日本国民であり、これから大人になる子どもたちの方だろう。誤った外交政策は、金額に換算不能なほど将来的に致命的で取り返しのつかない禍根を残しつつある。例えば、自衛隊を中東に派兵したことで、「ヒロシマ」「ナガサキ」の原爆被爆国日本に対して同情し、友好的だったイスラム教徒の反感を買い、いままでの中東外交を台無しにしたことではないのだろうか。10億人をこえるイスラム教徒を敵に回すようなアメリカ追随外交に終始し、「反テロ戦争」に協力した結果、世界は以前よりも安全になったのかを自問するといい。
9・11以降のアフガニスタン、パレスチナ、イラクの人々に対する米英やイスラエルによる「国家テロ」が、ブッシュやブレア、シャロンに似た狭くて過激な考えを持つ大勢のムスリムの若者を世界各地で生み出している。市民を巻き込んでも平気な第二第三のビン・ラーディンを育てる土壌を作り出しているだけではないのか。小泉政権のアメリカ追随無策外交が、「国家テロ」に積極的に協力し、その結果日本も含めた世界全体がより不安定でテロの不安におののく日常に陥いっている。それが世界の現実だ。
自衛隊派兵についてもう一度見直してみよう。日本政府がイラクの人々に対し、「復興支援」「人道支援」のために自衛隊が駐留しているなどと説明しても信用するイラク人がいると思うのが不思議だ。例えば、太平洋戦争による敗戦後の日本に置き換えてみればわかりやすい。米軍主導の進駐軍が日本各地に展開し戦後数年を統治した。その間に、例えばイギリス軍500名(ソ連軍と仮定してもよい)が九州の熊本に「復興支援」「人道支援」の目的で駐屯地を作ったと仮定しよう。このイギリス軍が進駐軍の一部隊だと思わない日本人が一人でもいるだろうか。
自衛隊がイラクのどこで展開しようと、自衛隊はイラクの人々にとっては占領軍の一部にしか受け取れないのが現実だろう。自衛隊はイラクの米英占領当局(CPA)で地方に展開する占領軍の一部隊であり、占領を受け入れないイラク人が占領軍に対してレジスタンス活動の対象となっても自然だ。民間人を無差別に狙った攻撃をレジスタンスではなくテロ行為として非難されるべきだ。しかし、占領軍を派遣する国の民間人による取材活動もボランティア活動も結果として危険にさらされてしまう。
ちょっと考えて見るがいい。イラクの場合は日本と違い敗戦国となる理由が最初から存在しない。イラク軍がアメリカやイギリスを直接攻撃したこともなく、米英の市民を大量に殺戮したこともないからだ。つまり、米英軍から最新兵器によって無差別に攻撃され、何千人という市民を殺戮される理由も、外国軍によって国土を蹂躙される理由もない。イラク攻撃の大義とされた大量破壊兵器さえ見つかっていない。今はっきりしているのは、80年代末から米の言うなりになることを拒否したサダム・フセインをブッシュ(ジュニア)政権が理由もなく潰したかったということだ。イラクをクウェートから撤退させるという国際的大義名分のあった湾岸戦争で、サダム・フセイン政権を弱体化したが温存したのはパパブッシュだ。チェイニー副大統領は当時は国防長官だった。チェイニーはサダムを余程嫌悪したか、イラクの利権を手に入れたかったのだろう。
話を人質救出に戻そう。米軍や日本政府の方針とは反対の意志を持つ人質と実行犯との意志疎通が、短期間での解放の要因でもあるだろう。邦人救出の義務と責任を負う日本政府・外務省が、市民やNGOなどのネットワークによる人質解放を求める活動ほど緊急に効果を上げる救出活動ができたかは疑問だ。外務省は情報の入手もできなかったのはほぼ間違いない。その結果、「外務省は3人の人質家族に全く情報を提供せず(できなかった)、情報操作までした」と、JVJA(日本ビジュアル・ジャーナリスト協会)仲間の豊田直巳氏は言っていた。
そうした政府・外務省の対応を批判することなく、新聞社、テレビ局、通信社などのマスメディアは、NGO活動家やフリーのジャーナリストの「自己責任」論を叫びはじめている。そのあげくに外務省によるイラクからの退避勧告に「素直」に従い、自衛隊輸送機で記者をサマワからクウェートに退避させたと(朝日新聞)恥ずかしくもなく書いている。それが国民の知る権利を代表する報道機関の取るべき姿勢なのだろうか。
広大なイラクの中のひとつの町であるサマワに何のために大勢の記者を派遣しているのか。自衛隊が莫大な予算を使いイラク人からの攻撃に身構えながら、NGOが低予算で短期間に地元住民に提供できる支援活動さえ自衛隊にできていないだろう。今後は自衛隊広報の提供する情報と映像に頼ることに異議はないのだろうか。大本営発表の時代に逆戻りすることに大手報道機関が自ら手を貸していることと同じ行為ではないのかと国民の一人として憂慮する。バグダッドに記者を置き、サマワから記者を退避させることは、サマワの方が危険度が高いということを意味していないのか。
ほんの一年前、米英軍による空爆が続くバグダッドに留まり、日本のテレビ、新聞、通信社に現場からレポートし映像や写真を送ったのは全てフリーランスのフォトジャーナリストやビデオジャーナリストだった。(私自身は日本という安全圏にいたものの、バグダッドではJVJAの仲間が5人取材していた。その後も4人は繰り返しイラクに入って取材を続けてきている)大手マスコミは自社の記者はイラク隣国に退避させ、バグダッドからの情報をフリーランスや海外メディアの報道に全面的に頼ったことを忘れたのだろうか。
マスメディアの社員記者カメラマンがバグダッドに入ったのはサダム・フセイン政権が崩壊してからだ。現場から報道する責任を回避したマスメディアが、今回のようにフリーランスのジャーナリストが捕まったことで「自己責任」を強調する政府・外務省に一転して同調している姿からは、政府や行政を監視し、弱者の側から報道する独立した報道機関の責任を放棄し、日本国憲法さえも軽んじる意志を強く感じる。
首相が何と言おうと外務省が何と言おうと、国会議員が何といおうと、憲法に準じていなければ無視すればいいだけだ。無責任な連中の言い分に耳を傾けるより、憲法に保障された権利を行使することが国民の知る権利を守ることにつながる。そうしたマスメディアの使命を自ら放棄することは、自己検閲であり、政府の情報操作に積極的に加担していることになる。
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