2008年3月26日(宗補雑記帳より復活ブログ):アメリカ政府嫌いのフォトジャーナリストの死
フィリップ・ジョーンズ・グリフィス氏がロンドンの自宅で19日にガンで亡くなったという。72歳だった。ロバート・キャパたちが創設した個性あふれる写真家集団マグナムMAGNUMのメンバーで会長も務めた人物だ。 ちょうど発売中のDAYS JAPAN 4月号に、彼の写真が10ページにわたって特集されている。
ガンで闘病中の死の床にあるグリフィス氏に敬意を表して特集されたものと思われが、雑誌の刊行日に彼は旅立ったことになる。たまたま私の写真も掲載されている号なので光栄だ。
「Vietnam Inc.」。70年代の終わりに遊学中のアメリカで見た彼の代表的な写真集だ。ベトナム戦争の一連の作品群が、アメリカ政府批判の独自の精神に根ざした視点で貫かれていて、アメリカによるベトナム侵略戦争の犯罪をたった一人で告発する闘いを挑んでいる印象を受けたほどだ。
朝鮮戦争でのアメリカ海兵隊の悲壮感あふれる写真で有名になり、米軍によるベトナムの「ソンミ村虐殺事件」はなかったとする論陣を張ったデイビッド・ダグラス・ダンカン氏のような米軍の肩を持つ報道写真家とは対極にある人だ。
いまグリフィス氏の写真を改めて見直すと、写真のうまさではなく、写真によって何を伝えなければならないのかという冷徹な視点に徹し、戦場で求める被写体に遭遇していたように思われる。反骨心あふれ、独自の哲学のある偉大なフォトジャーナリストの一人だった。
帰国後の80年代始め、アルバイトをしながら生活している頃、多国籍企業のアニュアル・リポート(年次報告書)のための撮影に来日した著名なマグナムのカメラマン数人の荷物担ぎ兼ガイド的なありがたい仕事が時折入ってきた。彼らの日本での撮影料は一日1000ドルくらいの破格なものだった。私にとっても率の良い収入で、お金をもらって彼らの撮影ぶりを勉強させてもらう一石二鳥の仕事だった。何よりも写真集でしか知らない彼らのアシストのような仕事ができることが光栄だった。グリフィス氏もその一人で、そうした収入が彼らの個人的な撮影テーマの資金になっていることも知った。
その時の印象は、ずば抜けた長身の大柄な体格で、イギリス人的なシニカルな比喩を好む、ユーモアのセンスのある人だった。イギリスといっても、ウェールズ人であることを誇りにしていた。少し短期なところがあったが、持ち前の批判精神は長年の戦場や紛争地取材で身につけた感性だと思われた。
MAGNUMのサイトで、グリフィス氏がベトナム戦争で米軍が無差別に投下した猛毒の枯葉剤(Agent Orange)を原因とする奇形児を取材する姿を追ったドキュメンタリー番組の一部を見ることができる。放射能や劣化ウランによる影響を数十倍にしたかと思われるほどすさまじい。
眼球がない、両腕がない、肥大した頭などの子どもたち無数にいる。枯葉剤の被害者が三世代目に入っていることも驚きだった。とにかく圧倒される映像だ。ベトナム戦争が終結して30年。戦争が全く終わってもいないし片づいてもいないことに気づかされる子供たちの存在に気が動転した。
グリフィス氏はベトナム戦争の追跡取材を長年続けていたことを知った。番組の中で、大勢の奇形児が生活する施設が主にドイツやフランスからの援助によって運営されているが、アメリカ政府からの援助がゼロであることを語っていた。彼はスティール写真の力をまだ信じている姿も見えた。
たった一人でもすごい仕事ができることを教え、ベトナム戦争を知らない世代でも戦争の醜さを感じ取ることができる記録写真群を後世に残してくれたことを感謝し、グリフィス氏の冥福を祈りたい。
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