2005年11月10日:火葬場で焼身自殺した福井の老夫婦に思う(宗補雑記帳よりの復活ブログ)
夕食後、近くの店でビギンの中古CDを買い、「涙そうそう」を聴いたら涙があふれてきた。ラジオで聴いてもなぜだか条件反射のように目頭が熱くなってしまう素晴らしい曲だが、今日は2-3日前の老夫婦の自殺のことが思い浮かんで仕方がなかった。7日の午後、福井県大野市の火葬場で焼身自殺した80歳と82歳の老夫婦のことだ。
テレビのニュースでショッキングな内容に息もつまりそうだった。「老老介護」の果ての無理心中に、あまりのやるせなさと悲しみに、連れ合いと線香を焚いて老夫婦の冥福を祈った。しかし、すこし心が落ち着いてみると、単なる自殺では片づけられない、夫の逝き方への強い意志が感じられ気になりはじめた。
今朝の日刊スポーツによる続報では、子どもも身寄りもない夫婦で、夫が妻を近くの病院によく連れていったり、オムツの取り替え、掃除洗濯を全部やっていたようだ。妻は数年前から痴呆の症状が出ていて、夫も体調をくずし病院通いだったという。地元の警察は、妻の介護生活に疲れた夫が、将来を悲観して覚悟の心中だったと見ているとあった。
「遺産は全て市に寄付します」と夫が署名した遺言状は、8日に大野市役所に届いたが、約1年前に作成されていたという。用意周到な準備と夫婦そろっての死に方を選んだ決意が、最初から揺るぎないものだったことがうかがわれる。
それにしても、火葬場の焼却炉を内側から閉めて焼身自殺を実行するとは、そのための準備をする夫の一連の行動を想像するだけでも、胸が詰まってくる。意識がしっかりしたままの二人が、熱い炎で身体が焼かれ意識がなくなるまで耐えることができたのだろうか。まるで葬送曲を流して心を静めるかのように、車からはクラシック音楽が大音量で聞こえるようにしてあったという。
優れた小説家でも思いつかない方法で老夫婦は向こうの世界に渡る方法を実行してしまった。
子どもも身寄りもない老夫婦には、頼れる友人もいない「孤立した」ような生活を送っていたのかもしれない。それにしても、最期の時の迎え方の潔さには、何か強い信念のようなものさえ感じることができる。自分の最期は自分でコントロールし、誰にも迷惑をかけないぞというような。
今朝、ヨルダンでは自爆テロで60名近くの人が殺された。一週間前のイスラエルでは、12歳のパレスチナ人の少年がイスラエル兵に頭を撃たれて殺害された。先月のパキスタンの大地震では8万人が亡くなった。どれも自分の意志で選び取った死に方ではない。
福井の老夫婦の焼身自殺は、追いつめられた結果として選んだ死槐に方とは思えないのだ。強い意志で決断し、潔く実行しているところにすさまじいものを感じてしまう。
二人は60年前の戦争を生き残ってきた、最も苦労してきた世代だ。青春時代を戦地にかりだされたかもしれない夫は、どんな体験をくぐり抜けてきたのだろうか・・・。
大野市のホームページを見たら、二人が彼岸に渡った日は、大野市と和泉村が合併して新大野市が誕生した日だった。
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