熊本大震災から1年 生活再建、復興とは何かを考えよう
(写真はクリックすると拡大します)
熊本大震災から1年後の被災地に、三度目の取材に入った。
壊滅的な被害を出した益城町中心部に添って流れる秋津川沿いは、例年よりも遅れた桜が満開の時期と重なった。一件の民家が解体中だった。壊れて住めなくなった家屋の解体と更地化の進行が、昨年7月の取材時からすると、すごいスピードで進んでいる印象を強く受けた。満開の桜を背景に解体される民家は、どこかシンボリックな光景だった。
「仮住まい47725人」の大見出しが際立つ、熊本日日新聞4月14日朝刊紙面。
一体、全国のどのくらいの市民が、これほどの深刻な事態を実感していただろうか?
このブログの読者には、原発事故後の福島県の浜通り、例えば浪江町で発災から5年~6年後にようやく始まり、軌道に乗った家屋の解体撤去、更地化の現在進行形の事実を想像しながら、熊本地震後の、家屋の解体更地化の進展を考えてほしい。
このブログでは、最初の取材および昨年7月の取材時と、大地震から1年後の被災地の変化をわかり易く伝えるために、二枚の写真を合体させてみた。左側の写真が昨年の4月か7月に撮影したもので、右側が1年後の4月に撮影した写真です。壊滅的な被害を出した地区の更地化が顕著だが、被害がわかる写真がないと、現場に立つ機会のない人には、被害の規模さえも想像できないからだ。
様々な事情で解体の遅れている家屋も、もちろん、あちらこちらに点在する。
○西原村
原木シイタケ専業農の家荒木一さん宅は、1月に解体され、更地になっていた(風当地区)。
荒木さんについての琉球新報の記事(4月27日掲載)
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酪農家の大川充洋さん。今年二月半ばから、生乳の出荷を再開(星田地区)。
大川さんについての記事(4月26日掲載)。
「味の山一」料亭と仕出し屋を経営していた緒方登志一さんは、全壊した料亭を改造し、昨年10月から営業を再開した。(布田地区)
布田川断層マップには、大切畑ダムを縦断するような、新たな断層が見つかっている。(ピンク色の太い線が新たに見つかった断層。西原村の荒木さんの自宅の近くを布田川断層が走っている。
布田地区の裏手は小高い山が連なっているが、大地震の前は小さな滝が流れていた場所が完全に崩落して、深いV字渓谷ができていた。その後の豪雨の度に崖が崩れ、谷間が広がりつつある。緒方さんはじめ、布田地区の住民は、地震よりも山崩れによる土石流の被害を現実視している。
V字渓谷となった場所のわずか200~300ⅿ下流には、民家が立ち並び、地震により全壊し、更地となった空間も目立つ。この場所にあった民家が本震でつぶれ、年配の男性が圧迫死した。
隣に住み、地震後に隣人の救出にかけつけた森幹雄さん(60)は、解体され更地になった自宅跡で生活再建の厳しさを語った。「集団移転の話が出ている。目途が立たない。先が見えない。どうにもならない」
奥さんは自宅跡に住むのは怖くて嫌だと話しているという。
それでも、「東北の被災者や原発事故被災者よりも、ずうっとましだと思う」と話した。
東海大阿蘇キャンパス近くの倒壊し、学生の犠牲者の出たアパート。
同じく、東海大阿蘇キャンパス近くの倒壊し、学生の犠牲者の出たアパート。
阿蘇キャンパスの入り口に建つ、全壊した建物と、崩落した土手。
阿蘇市狩尾地区の大きな地割れはまだ手付かずだった。地割れは約2キロに及ぶため、広い水田地帯の耕作は、大規模は土地造成事業が必要なため、農業再開は来年まで延期されている。
○「被災者150人聞き取り調査 「元の場所戻りたい」8割」(熊本日日新聞4月16日掲載記事から)地元紙による被災者聞き取り調査が載っていたので、ポイントのみ書き出したい。
「地震前の居住地に戻りたいか」は63%(94人)。
「戻りたいけど戻れない」が19%(28人)。
合わせて8割超が転居を希望しない。
「住まいの再建・確保」の「見通しが立たない」が50%(75人)。
自宅の復旧や入居先の確保が被災後1年では困難。
現在の生活への不安や不満などが「ある」「どちらかといえばある」は57%(85人)。
その理由として48人が「住まい」。
健康面では、35%の53人が「この1年間で体調不良があった」と回答。
3人に1人以上が今も不調を訴える。
24人が不眠や強いストレス、いらいらなど感じている。
10人が病気の発症・悪化。
就労に関しては「変化なし」が60%(90人)。
残る60人のうち農業や自営の計22人が「再開できない」「廃業した」などと回答。
「行政への希望」では、復旧や家賃への補助関連が17人。
原則2年とされる仮設住宅の入居期間の延長を望む人が13人。
「将来への希望や不安」については、金銭面から住宅再建へ不安を感じる人が31%(47人)。
「地域が再生するのか心配」とする声が21人。
約2割の被災者が、元の居住地に戻りたくても戻れない、という点が、最大のポイントだと思う。
○狭すぎる仮設住宅(西原村)
夫婦二人で生活する二軒の被災者の仮設の広さ?を紹介する。
荒木さん夫妻の仮設住宅は1K。居間兼寝室が6畳マイナス押入れ分の1畳。
緒方さん夫妻の仮設も1K。荒木さんと同じ間取り。
「誰もが狭い仮設は一日でも早く出たいが、家を建てる金はない」と緒方さん。
○原発事故後の福島県との比較のための参考に
地震で倒壊寸前のままに残された神社と鳥居。除染は完了し、今年3月31日に避難解除となった地域にある。(浪江町、2017年3月撮影)
地震には耐えたが、原発事故により帰還困難区域に指定され、手付かずにされたままの大熊町の住宅街。2017年3月撮影。
○取材後記
壊れて住めなくなった家屋の解体、更地化は、生活再建の第一歩。解体撤去、更地化のスピードは速いものの、大震災と表現するに値する熊本の地震の被害から、被災者と被災地が立ち直ることは、決して楽なことではないことは、写真などから現場に立たなくてもわかると思う。
地震という天災と、原発事故という人災による、生活再建、復興への道のりの極端な違いを想像してみてください。まして、原発事故による放射能汚染が深刻な地域の住民にとっての、生活再建とは、復興とは何か?
以下は熊本大震災取材の記事です。参考にしてください。
熊本の地震は大震災ではないのか?熊本大震災フォトルポ(4月29日~5月2日)
熊本の地震は大震災ではないのか第2弾(7月13~15日取材)
◯取材活動支援のお願い
フォトジャーナリスト 山本宗補活動支援
ジャーナリストの活動を支えてください。
・郵便振替口座(加入者名 山本宗補)
00180-1-572729
・銀行振込
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
高齢の母親と自宅再建にむけて前が見えたとたんに、住民の望んでない再開発事業
が唐突に発表され母親はショックで入院。地震で家屋を壊され、町の計画で土地を取り上げられ、2回のショック ちょっと立ち直れないかな。
投稿: 住人A | 2017年5月11日 (木) 21:47
住人Aさま
生活再建の想像を超える厳しい現実を教えていただきありがとうございます。
被害状況の格差、経済的事情の違いの格差など、うまく知ってもらうことは難しいものですが、
コメントを広く知ってもらうことで、被災者の置かれた厳しい現実に、思いをはせていがだきたいと思います、
投稿: 山本 | 2017年5月12日 (金) 19:49