インド・ジャイタプール原発建設に反対する住民:「日印原子力協定締結に反対」
(写真はクリックすると拡大します)
インド西部、アラビア海に面したジャイタプール原発建設予定地(マハーラシュトラ州)は、三陸海岸のように入り江が幾重にも入り組んだ自然環境が特徴的。
大小の漁村と農村が重なり合い、この地方の特有の天候と自然環境に適した漁業と、アルフォンソマンゴというマンゴの中でも最高級マンゴが主体の農業が確立されていることを実感した。現地はムンバイから南に直線で約270キロ。東京と福島第一原発の距離よりも若干遠いという位置関係だ。
◯ジャイタプール原発建設予定地周辺の自然環境
アラビア海に面するジャイタプール原発建設予定地に隣り合う入り江からの夕景。
ジャイタプール原発建設予定地周辺は、入り江ごとに漁村や農村折り重なり、風光明媚で自然環境は豊かなままだ。
高台に整備されたアルフォンソマンゴのプランテーション。赤土の大地は乾燥して痩せているような印象を受けるが、マンゴの成育には適しているようだ。
重量感もあるアルフォンソマンゴ。出荷が近い。
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◯インドの原発立地地図(取材現場)
インドの原発立地地図。大雑把に手書きしてみた。
原発事故が生む目に見えない放射能汚染は、地震や津波などの天災とはまったく異なる怖さがあることを、福島第一原発の水素爆発で日本人は経験した。
原発推進のインドでは、人々は福島のような原発事故は未経験だが、チェルノブイリ原発事故から学び、福島第一原発事故が反対運動を一気に盛り上げた。
ジャイタプール原発建設予定地に近い中心都市はラトナギリ。4月は酷暑の入り口。昼間の活動を控え、夜になると住民は一気に活動的になる。
◯ジャイタプール原発建設に一貫して反対してきた漁村、サカリナテ村
ジャイタプール原発(マハーラシュトラ州コンカーン地方。2008年にインドとフランスの合意が成立。インド原子力公社は2005年から2009年にかけて土地を取得した。仏のアレバ社が一基160万キロワット6基、合計990万キロワットの原発を建設予定。建設費用が高額で問題の多いヨーロッパ加圧水型。アレバ社の原発部門は事実上倒産で、建設計画はストップしている)。建設予定地に最も近い漁村のひとつがサカリナテ村。1500戸、人口は約10000人。歴史の古い大きな漁村で、住民の大半はイスラム教徒。放射能汚染や高温排水の影響を最も受けやすく、住民は一丸となっている。
アラビア海から内陸に少しだけ入った漁村としての適地。ジャイタプール原発の建設が予定されているのは、この入り江を挟んだ反対側の高台となる。
サカリナテ村は原発建設予定地一帯では大きな漁村。港から入り江を抜け、アラビア海に出る高台にある灯台は、原発建設予定地の先端となる。
大型の漁船が大量に繋留され、漁業資源が豊かだということも実感できる。
サカリナテ港から漁に出かける漁船。灯台のある高台が原発建設予定地の一角となっている。どこか福島第一原発に似たような立地条件。原発が建設されれば、入り江の半分が法律上は立ち入り禁止となり、漁船の自由な航行も阻害される。
原発建設予定地に建てられたばかりの建物が見える。現在のところ、動きはストップしているという。
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2011年4月18日。原発に反対するデモ隊に対する警察と準軍隊の弾圧により、イスラム教徒の漁民、タブレス・サエカーさん(31歳)が銃弾を胸に受け死亡。負傷者約16人。父親のアブドゥル・サッター・サエカーさん(60歳)は一人息子を失い悲しみにくれる。警察からは何の詫びも補償もなく、発砲について警察は「法と秩序を守るためだった」とコメントしただけだという。
原発推進する権力側の銃弾に倒れ、殉教者となった息子さんの死を忘れないように現場に建てられた看板。
サカリナテ村のイスラム教徒のモイド・カドゥさん(45歳)は反対運動活動家で本業は運送業と漁業。2006年から反対運動に参加してきた。
「もし原発が稼働すれば、漁業には完璧なダメージとなる。日本が原発を止め、ドイツが原発を辞めることにしたので、さらに危険だと感じた。補償など要らない。原発を辞めろ!」
2015年12月の安倍首相のインドを訪問の際に貼られたポスターが村のあちこちに残っていた。ポスターに書かれたスローガンは以下の通り。
「日印原子力協定締結に反対する」「みんなで核は要らないと叫ぼう!」
「ジャイタプール原発建設を辞めろ!」「コンカーン地方を救え!」
切り出された岩石は、レンガの代わりに建物や家の床や壁材として多用されている。土地の境界線としてのフェンスにも多用されている。
◯原発立地予定地となり、強制的に土地収用されたマドバン村
バッパル・ガワンカルさん(52歳)。マドバン村の反対運動の闘士。ヒンドゥー教徒の農民。逮捕投獄歴6回。
原発建設予定地はマドバン村だが、予定地から外れているジャイタプール村の名前が原発名となっている。マドバン村はヒンドゥー教徒の多い村で、原発の南側の入り江に港が面し、高台の牛を放牧する台地700ヘクタールが政府によって強制的に収容されている。30頭ほどの牛を飼うバッパルさんも放牧地を奪われた。
「2004年から反対し始めた。ここが最初にデモした村だ。土地収用後に反対運動は高まった。補償金をもらった住民もいるが、私は拒否した。原発は危険だと触れ回ってきて、お金を受け取るということは倫理的に正しくないからだ」
村の家家は、ココナッツの森に囲まれている。
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入り江の干潟では、女性たちが貝をとっていた。
マングロープの生い茂る干潟は牛たちのエサ場にもなっていた。
◯原発建設に反対する住民組織、「住民権利委員会(ジャナ・ハッカ・セバ・サミティ)」の活動
住民たちはムンバイの活動家と協力し、住民組織をつくり、地道な反対運動を続けている。(会長はムンバイの活動家サティヤジットさん。一人NGOのような活動。事務局長は地元政治家のディパック・ナグレ氏)。
周辺の村から原発建設反対の活動家らが、マドバン村にあるヒンドゥー教寺院に集まり、反対行動の計画を話し合った。インド各地では衝突の多いイスラム教徒とヒンドゥー教徒が、宗教対立やカースト差別もまったく存在しないような雰囲気の中で意見をぶつけあい、計画を練る姿が新鮮だった。特筆すべき光景だった。反対する現場には、保守革新の違いも信仰の違いもないことを強く実感した。
サティヤジットさんの各集落を回っての根回しの結果、原発事故の怖さを周知する写真展を各村を巡回して実施することに合意した。
◯殉教者の追悼と、原発反対写真展村落巡回キャンペーンの報告(4月18日)
帰国後にサカリナテ村のイスラム教徒から最新の動きを写真で送っていただいたので以下に転載します。前述のとおり、5年前の4月18日、銃弾で殺害されたタブレス・サエカーさんを追悼する記念日から、原発事故の怖さを学ぶ写真展が各村を巡回し始めた。これはムンバイの活動家サティヤジットさんの事前の根回しの結果だ。
原発建設反対の住民運動は10年前から始まり、イスラム教徒の漁民も、ヒンドゥー教徒の農民も、いまでも協力し合い、生計が根こそぎ奪われかねない原発建設に抗議し続けている。住民は原発事故の怖さをしっかりと学んでいる。福島原発事故が、彼らの反対運動をさらに力強くさせたことは確かだ。
タブレス・サエカーさんが銃弾に倒れた現場に建てられた看板が新調されたようだ。
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・アンボルガッド村(砂浜の広い小さな漁村の対岸には立地予定地の高台と灯台が見える。戸数は約200戸、住民数は約1000人。反対運動の中心的役割を果たす40代の男性は言った。
「原発?そんなものはいらない。必要なのは自然と調和した持続可能な開発だけだ」
もし原発が建設されたら、自然の豊かな中でゆったりしたリズムで生活できる景色は一変する。原発事故による放射能汚染は取り返しのつかない環境破壊を引き起こす。地元の住民たちが拒否するのは当然だが、インドでは原発推進路線の政府による弾圧もまた普通であるかのように実施される。
◯クーダンクラム原発反対運動
クーダンクラム原発に隣あう漁村、イディンタカライ村の人口は12000人。カトリック教徒の村だ。一貫して原発に反対している。
2年前に現地取材したインド最南端のタミルナド州にあるクーダンクラム原発(インド原子力発電公社)の反対運動については、「自然と人間」(2014年8月号)に詳しく報告したのでご覧ください。クーダンクラム原発は、80年代に建設計画が持ち上がり、2011年に完成。ロシア製加圧水型軽水炉原発で、一基の最大出力は100万キロワット。2011年に完成し商業運転を始めることになっていたが、東電福島原発事故により反対運動が盛り上がった。政府権力側の弾圧が激しく、反対派住民の4人がすでに殉教者となっている。
クーダンクラム原発反対運動の指導者、ウダヤ・クマールさん。ウダヤさんは根拠のない誹謗中傷により、国に対する反逆罪を含む385件の罪状で告発された。自宅は家宅捜索され、銀行口座は差し押さえられ預金を引き出すこともできなくなった。パスポートは無効にされ、夫婦で経営している私設学校は何者かによる襲撃で壊された。
「核爆弾と原発はつながっています。日本は原発技術も原発も、インドだけでなく世界のどの国にも売らないでください」
◯取材活動支援のお願い
フォトジャーナリスト 山本宗補活動支援
ジャーナリストの活動を支えてください。
・郵便振替口座(加入者名 山本宗補)
00180-1-572729
・銀行振込
城南信用金庫
店番036 普通口座 ヤマモトムネスケ 口座番号340130
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
山本 宗輔さま
「南アジアは今~インド型民主主義の展開と課題」講師:中村平治(東京外語大名誉教授)の学習会(9/6)に当たり、特にインド中心なのですが、日印原子力協定の質問も出るのではないかと、事前の資料を検索していましたところ、このブログに当たりました。手書きの地図、いくつかの現地集会の写真及び文章を出典を記載して、許可願えないでしょうか?
取材による貴重な記事だと思いますので、ネットを使えない人々にも広めたいと思います。
投稿: | 2016年9月 4日 (日) 18:01
名無しの投稿者さま
投稿に名前もないので、無視することもできるのですが、あなたさまは写真や地図を何の目的で(質問するため?それとも発表するため)、どのように使うのでしょうか?
コメントだけでは意味不明です。
投稿: 山本 | 2016年9月 4日 (日) 22:39
山本さん、いつも拝見しています。
インドへの原発輸出、利権がらみ以外の何物でもないです。被爆国(被曝国でもある)ゆえにむしろ核がらみの利権が強いのでしょうか?
インドに対する新幹線の輸出も原発とセットですね。
朝日新聞では、インドは電力が足りないから原発を輸出する事になったと書かれています。なぜ、電力を大量消費する新幹線なのか?と。
現在の政権にJR東海葛西氏が深く食い込んでいますから。
人の命と引き替えのお金儲けには、断固nonです。
投稿: | 2016年11月13日 (日) 18:47
投稿者さま
(手違いで山本が投稿した扱いになってしまいました)
ご指摘、その通りでしょう。
原発事故の被災者、家があっても未だに帰ることができない数多くの被災者、
今後10年、20年経っても、故郷を喪失した状態の被災者の存在などに、
まったく同情も関心も持たない政治家や官僚や原発ムラの住人が、
国民の総意を無視して、原発輸出に走っている結果です。
インド国内の利権の取り合い、分配合戦が地元住民の反対の意思とは
無関係に展開されるのだと思います。
投稿: 山本 | 2016年11月13日 (日) 23:04