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2013年10月31日 (木)

戦争体験者70人の肖像写真と証言を展示した写真展が終わった

(写真はクリックすると拡大します)

 9日間の写真展が終わった。準備から広報、6日間の対談と、一月以上、この写真展のために走ってきたので、終わってしまったという脱力感のようなものがある。どうしてもっともっと多くの人に来場していただき、理想的な空間での展示を見てもらうことができなかったのだろうか、という後悔がないわけではない。

感想1:「語りかけるたくさんの真実。しかし、最近はそれらの真実がまったく存在しなかったかのように、歴史にウソを塗りこむ風潮が強くなっているのは悲しいことです。
やっぱり真実を真実として伝えていきたいとこの写真展であらためて感じました」(40代男性)

◯対談ゲスト
・10月18日:「沖縄戦。米軍基地問題」などについて。ゲストは鈴木耕さん。
_8ds5601自著の「沖縄へ」を手にする鈴木さん。

期せずして二人が指摘したのが、戦後に昭和天皇が沖縄の軍事基地利用をマッカーサーGHQ元帥に密使を送って提案した事実の重み。私は、参加者に英文のコピーを配布した。25年から50年を基地として使ってくださいという内容の、自らの責任を回避する保身の極み。

_8ds5605沖縄医療特区構想の必要性を披露する鈴木さん。

・10月19日:「戦争中の棄民と現代の棄民」に通底する問題について。ゲストは栗原貞子さんと吉沢正巳さんのお二人。吉沢さんにわざわざ来ていただいたのは、原発難民となった人たちの中に、満蒙開拓団として棄民されたことのある住民もけっこういることを知ってもらいたかったのだ。国の棄民政策は変わっていないことを知る機会として。
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吉沢さんの両親は新潟県出身で、初期の満蒙開拓団だった。満州東部、ソ連国境に近い黒台開拓団。手記には、逃げ切れずソ連軍に蹂躙される前に自らの手で家族を「処分」した事例がたくさん書かれていて息苦しくなる。
_8ds5609戦後40年経って自費出版された黒台開拓団員の手記。

対談後にゲストのお二人を栗原さんの写真の前で撮影させていただいた。
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_8ds5670栗原さんの末娘の陽子さんのお子さんの運転により、江東区から駆けつけていただいた。栗原さんが対談したこともある故鈴木則子さんの二人の娘さんも対談に参加され、実に賑やかな集いとなった。歩くのも大変になっている栗原さんに来ていただき、体験を生の声で話してもらう機会を提供できたことは大きな成果だった。

・10月20日:「東京大空襲などの空襲による被害や国が見捨てる戦災障害者」などについて豊村美恵子さんと対談。_8ds5687敗戦直前に米軍機の機銃掃射で右腕を失った豊村さん。右腕は義足のため、話すときには左手だけが意思を示して動く。「親が生きていれば戦後に生きることがどれだけ違ったことだろうか」という、豊村さんの孤児として、戦災障害者として独りで生き抜くことの厳しさを、改めて吐露されていた。その深い心の傷は、参加者に重く伝わったようだ。

_8ds5695豊村さんの写真の前で撮影。

感想2:「人間は集団化した時に、多分に思考停止に陥り、残虐の限りを尽くすことで理性を失う生き物なのだということを戦争という事象に明らかに強く浮かび上がらせている」(20代男性)

・10月25日:関東に接近する台風による影響が最も深刻になる時間帯。ゲストはキッドのオーナーで、信州の無言館館長の窪島誠一郎さん。悪天候をものともせず、さすがに窪島さんの集客力は違った。「戦没画学生と戦争の伝わり方」などについて対談。硬い話ばかりする私と、硬軟織りまぜて自在に話す窪島さんの、噛み合うようで噛み合わないトークが結構好評だったことに救われた。
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対談後にお仲間を連れて参加していただいた鈴木邦男さんと窪島さんの記念写真。打ち上げはキッド地下にあるカフェ「槐多」で。
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・10月26日:ゲストは映画監督の松林要樹さん。戦後、タイに留まった未帰還兵の取材について。後半は原発事故後の福島県の取材を映画化していることと、最新作「祭の馬」の紹介。妙縁だが、映画に登場する元競走馬を飼育する田中ファームを私も取材していて、松林監督の話題が出たことを話した。
_8ds5745松林監督作品「花と兵隊」に登場する3人の未帰還兵の写真の前で撮影。
松林さんはすでに福島県のシリーズ3作目の取材に入っているという。

感想3:「語りつがれること、語っていくこと、記憶を記録として残しておくこと、それを誰もが見知ることが出きることの重要さを再認識。加害者としての事実は積極的に知ろうとしなければ知ることは出来ない。戦後は継続中という思いが、写真とメッセージを見て強く感じました」(60代女性)

・10月27日:最終日のゲストはJVJAの仲間たち。出席できないと思われた会員の参加で、私を含めて9人が揃った希有な日となった。古居みずえ、佐藤文則、豊田直巳、宇井眞紀子、綿井健陽、野田雅也、土井敏邦、森住卓各氏が出席してくれた。トークは「戦争の伝え方」を仮題にしてみたが、9人もいるので、各自の近況報告的な内容が半分となってしまった。_8ds5765
_8ds5768

フリートークの焦点を絞りきれないまま、安倍政権下で一気に右傾化する現状に対し、JVJAとしてどんな取り組みをしなければいけないのか、という自省をこめた消化不良のトークのまま時間切れとなった。最終的には特定秘密保護法案に反対する声を緊急に広めてゆくことを会員同士が確認する場となった。

参加者は会場にちょうど良いくらいで、二時間はあっという間に過ぎた。参加者からはJVJAの各会員とJVJAに対する熱い期待と、fotgazetの発行に期待する意見があった。とはいえ、現状に対する危機感をふまえ、対談後には普段はめったにそろわない会員がミーティングをするきっかけとなった。

感想4:「戦後68年を経ても、まだこの国に築かれていない考え方として、戦争に対する国家補償の精神があると思っています。加害の立場として、また多くの被害者を生みだしたものとして、国家がサービスとしての保証ではなく、国が責任と償いの義務も負う立場にあることを明らかにしていくことこそ、歴史をきちんと見つめ、責任をもってそれと向かい合うことだろうと思います」(50代男性)

写真展に対するカンパなどの支援に対する御礼
 今回初めて写真展開始前からWeb上でカンパを募ってきたのだが、これまでに35人のみなさんからご支援をいただいた。総額にして21万円をこえた。この場を使って、写真展に期待しカンパを寄せていただいた皆さまに心から感謝の気持ちをお伝えしたい。みなさまの貴重なカンパが無ければ、キッド・アイラック・アート・ホールという理想的な会場での写真展は開催できなかったと思う。

 カンパはプリント制作費用や写真パネル制作費用、対談ゲストに対する交通費などの期間中の出費などに充当させていただきました。今後の巡回展まで回すほどは集まらなかったものの、経費を心配せずに開催できたことは本当に助かりました。また、写真集に掲載した戦争体験者のみなさんから多くのカンパを寄せていただいたことも付け加えておきたい。

◯写真展の今後
 現在のところ写真展は、来年二月と三月に「9条の会」の地方組織から依頼された講演と合わせた規模を小さくした写真展が決まっている。講演や写真展を希望される方やグループからのご連絡を歓迎します。その前には、まず写真集「戦後はまだ・・・刻まれた加害と被害の記憶」(彩流社)をご覧になっていただくことをお願いします。

ちなみに、写真展期間中、写真集は55冊売れました。また、刊行から一月半で増刷になり、10月半ばには日本図書館協会による選定図書に選ばれました。安倍自民党政権の戦前回帰に抗い、この写真集が広まり、高校や大学での戦争の実相を学ぶ参考書となるように活動し、写真展も同時に各地で積極的に巡回していきたい。

写真展にご来場のみなさま、対談ゲストで来ていただいたゲストのみなさま、カンパや支援のメッセージを送っていただいたみなさま、また、写真集を購入したり見たりして、今回の写真展に大きな期待を寄せていただいたみなさま、ありがとうございました。

最後になりましたが、キッド・アイラック・アート・ホールの会場を寛大な配慮で使用させていただいた館主の窪島さん、早川さんと工藤さんらスタッフのみなさまのお力抜きには、写真展開催はできませんでした。この場をかりて、心からの御礼に代えさせていただきたいと思います。

感想5:「さ来年は戦後70年を迎える。戦争をじかに知っている人たちがどんどんいなくなってしまう。直接の体験者ではない者が戦争の記憶を受けついでいかなければならないと思うものの、体験者の言葉はやっぱり強い力があると思う。
 戦争が最も悲惨なシーンではなく、何十年も経た、何十年も体験を背負って生きてきた人たちのポートレートなので、心静かに戦争の現実と向き会えたと思う。たくさんの戦争体験者の記録をまとめられたこと、たいへん素晴らしいお仕事だと思いました」(30代女性)

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コメント

写真展拝見だけでなく、窪島さんの会に参加させて頂き、深みが増しました。
写真集は、じっくりと読ませて頂いています。
ありがとうございました。
今、上田にいます。久しぶりに無言館に行こうと思います。

投稿: 菅谷直子 | 2013年11月 1日 (金) 23:10

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