東京五輪は被災地の復興に役立つか?Part1(福島県の原発事故被災者に聞いた)
(写真はクリックすると拡大します)
「復旧・復興は相当に進んでいる。復興需要に支えられて日本で一番経済活動が前進している地域だ」。
これは黒田日銀総裁が参院選公示前の6月17日、宮城、福島両県内視察後に河北新報(宮城県を中心とした東北地方のブロック紙。岩手県と福島県もカバーしている)に語ったコメント。このコメントを引用して、河北新報編集委員の寺島英弥氏はこう書いた。「違和感をそこから始まった。そう実感する人は東北の被災地にいるのか、と」
この記事は、私もフォトジャーナリズムについて拙稿を寄稿した「Journalism9月号」(朝日新聞発行)に掲載されたもので。黒田総裁の目は節穴か、ということを指摘するまでもないだろう。
9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会総会で、安倍首相は英語でこうスピーチした。「福島の現状に不安の向きには、私が保証をいたします。事態はコントロールされています。東京にはこれまでも、これからも被害はありません」。別の場では、「汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」と国際社会に公言した。
太平洋に垂れ流されてきた原発の汚染水問題について、「嘘八百」を平然と言ってのけた安倍首相。東電幹部でさえ、垂れ流しを認める発言をしているにも関わらずだ。原発事故後、関東まで飛散したヨウ素によって、水道水が放射能汚染され、赤ちゃんには飲ませないでくださいと通達が出され、水パニックが起きたことさえも「無かったこと」にしようとした。小学生でもわかる幼稚な嘘に他ならない。
◯福島県浪江町「希望の牧場」
いよいよ怪しく光る「望郷の牛」
牧場の一角が汚染土壌再生試験場として区画され、ひえや粟の一種と見られるスーパーシュガーソルゴー(ソルガムとも呼ばれているようだ)が植えられていた。糖度が高く、茎は牛の好物のようだ。石油に代わるエタノール生産される資源作物だ。
(9月13日)
Q:東京五輪は被災地の復興に役立ちますか?と吉沢正巳さんに聞いた。
答えは「NO!」だった。その理由は単純明快だ。
「福島県の被災地を置き去りにした大都会東京のエゴだ。勝手にやればと思う。五輪の最中に関東大震災と東海の大津波、浜岡原発がどうなるかを現実の問題としてみなさんでシュミレーションをした方がいいのではないかと言いたい」
◯住民のいない自治体の、徐染後の汚染土を仮置きした風景。
田村市都路地区(避難指示解除準備区域) 9月14日
余震の繰り返しにより屋根瓦の崩れ方の激しい、大熊町内の新興住宅街。
◯福島県大熊町の避難住民
仮設住宅で避難生活を送る木幡ますみさんと、松本泰治さんの一時帰宅に同行した。二人は親戚の間柄。
野上地区にある木幡家のお墓に墓参り。墓地の向かいにある集会場に設置されたモニタリングポストは毎時2.88マイクロシーベルトを示した。木幡さんが持参した線量計では毎時3マイクロシーベルトをこえた。
☆松本泰治さんの自宅(いわき市に避難中。居住制限区域の大川原地区。原発から約10㌔)
松本さんは若くして亡くなった伯母の写真を持参してかけ直した。額が壊れたので修理したとのこと。松本さんの自宅は古いが地震による被害は屋根瓦にも見受けられない。ネズミの被害も限定されている。
松本さんの自宅裏手にある裏山の斜面が5m幅で徐染されていた。空間線量は6マイクロシーベルト以上を指し、土の上に直置きすると8マイクロシーベルトを示す。シイタケも果樹も元には戻らない。
裏山から30mほど離れた自宅の庭は空間線量が1.7マイクロシーベルト前後。裏山の高さは20m以上はあり、自宅を囲むような森が全て徐染されない限り、自宅は放射線に常にさらされる。帰還困難区域に指定されていないのは、自宅敷地の一部となる裏山も含めて区域再編の判断基準としない矛盾であり、渡辺利綱町長の自宅のある大川原地区全体をひとくくりに再編した矛盾でもあるだろう。
9月14日
Q:東京五輪は被災地の復興に役立ちますか?と松本さんに聞いた。
答えは「NO!」だった。その理由はこうだ。
「役立ちませんよ。オリンピックに金をかけるよりも、私ら避難民の賠償と除染などの復興や原発収束にお金を回すべきです。五輪開催は相当な金を使うわけだから、その分、私らの復興が早く進むじゃないですか」
大熊町大川原地区で進む先行徐染の基地となっている大手ゼネコンの事務所棟は、渡辺町長らの農地だった土地が利用されている。
先行徐染が進む大川原地区にある渡辺町長の自宅庭先。
渡辺町長の大きな家には徐染作業のための骨組みができていた。
☆木幡ますみさんの自宅(会津若松市に避難中。帰還困難区域の野上地区。原発から約8㌔)
木幡さんの自宅に通じる舗装道路も雑草で生い茂っていた。
自宅の庭先の空間線量は毎時5マイクロシーベルト前後。下げ止まりの兆候を見せている。
Q:東京五輪は被災地の復興に役立ちますか?木幡さんに聞いた。
答えは「NO!」だった。その理由はこうだ。
「原発が収束していないのに、オリンピック招致で沸いているなんて信じられない。何よりも、私たちの命を保証し、財産を補償して。そうでなくとも復興予算が流用され、減っているのに、五輪関連工事で収束作業がさらに遅れる」
9月14日
☆住民の帰還ができるとは思えない大熊町
福島第一原発の汚染水貯蔵タンク群と墓地。墓地の集団移転はいつになるのだろうか?遺灰も墓石も全てが放射能により高濃度に汚染されてしまった。
地震による被害の見えない屋根瓦ある民家の向こうに、カバーがかけられた1号機と、特徴的な建屋の残る2号機と高さ120mの排気塔が見える。
大津波で壊滅した常磐線富岡駅の駅舎。線路上はセイタカアワダチソウが繁茂する。夜空には中秋の名月が輝いていた。9月18日
◯むすび(安倍首相の「嘘八百」スピーチ)
9月20日、福島第一の収束作業現場を視察した安倍首相は、汚染水問題について、「完全にブロックされている」と強調したと大手メディアが報道した。
IOC総会で2020年の東京五輪の招致が決定した。7年後の開催だが、政府も大手メディアも諸手を上げて大喜びし、お祭り騒ぎのような報道に違和感以上の怒りを覚えたのは私だけではないだろう。
私自身の考えは、五輪を開催しようとすることは、大震災被災地全体の復興を遅らせる悪影響を及ぼすだろうということに尽きる。原発事故の収束、廃炉を遅らせ、原発難民への賠償や除染作業を遅らせるだけでマイナスとしか思えない。開催都市の東京さえ安全であれば良いという安倍首相の公式発言に、被災地を差別化する意思が読み取れる。
政府(国)が税金の使い道の優先順位を間違え、大震災も原発事故はなかったことにしようとする空気を着実に醸成するための方便でもある。民主党政権の時、国民の過半数以上が脱原発を望んだが、脱(反)原発、再生可能エネルギー利用拡大の大きなうねりをつぶそうという狙いも見え隠れする。
開催予定都市の東京都についていえば、都知事選当時から敗北した弁護士の宇都宮健司候補が指摘していたように、4000億円というオリンピック積立金は被災地の復興支援などに優先して活用するべきだ。五輪招致が決まったいまでも、「3・11」以降に日本社会が直面する問題は何も解決していないのだから。
PS:「東京五輪は被災地の復興に役立つか?Part2」は岩手県、宮城県の大津波被災地での取材を報告しま
す。
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