近刊写真集のお知らせ「戦後はまだ・・・刻まれた加害と被害の記憶」(彩流社)
(写真はクリックすると拡大します)
私が戦争体験者の聞き取りを本気で始めたのは2005年。沖縄の西表島や波照間島などの八重山諸島を舞台にした「戦争マラリア」の取材に取り組んでから。沖縄戦体験者の取材もしたことのない私は、自らのビルマやフィリピンなどでの取材で職業病のように繰り返し罹ったマラリアや熱帯特有の病気体験があるため、日本の辺境での「戦争マラリア」とはどんなものだったのかを知りたくなったのだった。
一言で「戦争マラリア」とは何かというと、沖縄本島での地上戦終了や、本土空襲や原爆投下後の敗戦などで戦闘行為がようやく終わったことに全く左右されることなく、日本軍の軍命によりマラリア有病地帯への疎開を命令された離島の住民たちが、マラリア地獄につきおとされ生死の境をさまよった本当の話だ。半年ちょっとの間の死者は3600人以上にのぼる。米軍の上陸もない八重山の離島での無駄死にほかならない。強制疎開を命令して誰か責任を取ったものがいるだろうか。戦後数十年たっての政府による戦後賠償さえないに等しい。
「戦争マラリア」は敗戦も知らずにフィリピン山中などで敗走し、飢えと病気と戦って死んで行った無数の日本兵の姿と重なる。「生きて捕虜となるなかれ」という東条英樹が出した戦陣訓の金縛りで、捕虜となって生き延びる道を選ばずに逃げ惑った無駄死にが、フィリピン戦線に限らないがどれほど多かったことだろうか。
そして、戦争マラリア同様に、「捕虜になるなら死を選べ」という暗黙の命令を発した東条英樹自身が、拳銃自殺できずに進駐軍に捕まったという無責任さに対し、フィリピン山中で飢え死にしそうになった兵隊が東条を非難するのも当然である。
インパール作戦という、無謀なインド攻略を立案し、数万人の将兵の命をもてあそんだ牟田口廉也司令官に至っては、自らの責任などまったく顧みず、戦犯ともならずに70代後半まで生きた事例もあるほどだ。国策で無謀な侵略戦争を推進した戦争指導者は、昭和天皇を含め、いったい誰が指導者責任を果たしたのだろうか。
余談になるが、かつての戦争責任のあいまいさと、2011年の原発事故責任のあいまいさが通底しているのが日本社会の悪しき伝統ではないのかと思えてくるのだ。これは私が指摘するまでもない話だが。
この写真集では、これまで聞き取り取材した戦争体験者の中から70人を選び、軍国主義化の天皇制国家日本が国策で近隣諸国を軍事力で侵略していった事実が、戦後世代の私たちや、これから生まれてくる真っ白な子どもたちに、日本社会の負の歴史を知るための資料となることを願って出版するものです。
とりわけ、加害者としての戦争認識が皆無とさえいえる戦後生まれの政治家が続出し、彼らの発言が近隣諸国との外交経済関係の悪化を招き、国益を損なっている事態に発展していることに、かつて敵国として戦った米欧の、影響力あるメディアや政治家が安倍首相批判や橋下大阪市長(維新の会共同代表)非難をするところまで、日本社会の「右翼化」、「非民主主義社会化」が急激に進行している。
この夏には敗戦から68年を迎える。戦争の生き証人がいなくなった時ほど怖ろしい時代はない。今だからこそ、この写真集と証言を手にし、かつての愚かな戦争の実態と、国民が日常的に政府をコントロールしていかないと、政府=国は必ず暴走する教訓を学ぶ必要がある。
◯書影
2013年7月末発売・予価=4700円+税。A4版、上製、160ページ、モノクロダブルトーン
◯チラシ裏(掲載予定70人の名前と関連戦地リスト。写真+証言ルポの見開き
(8月4日山本訂正。掲載者の変更:韓国人性奴隷被害者のハルモニ二名(金福得さんと李玉善さん)を収録し、吉元玉さんは掲載なしです。南洋・沖縄の章では、遠藤勝太郎さんの掲載はなしです。本土・空襲・被爆者の章では、久保美津子さん(広島被爆者)、深堀寛治さん(長崎被爆者)を掲載し、木幡吉輝さんの掲載はなしです)
◯チラシに載せた私のコメント:
「わずか68年前に敗戦を迎えたアジア太平洋戦争。日本人の死者だけでも310万人に及ぶ。日本軍が勝手に攻め入って占領したアジアや太平洋各地で亡くなった人の数は、いったいその何倍になるのか。私がこの写真集で紹介できるのは、わずか70人ほどの戦争体験者の個人史だ。しかもその一部に過ぎない。
「戦後生まれの日本人が権力を掌握したら日本は危険だ」とは、シンガポールの首相を務めたリー・クアンユー氏の名言。「戦争の定義」を持ち出し、加害者責任をあいまいにする前に、戦後生まれの私たちは、個人史から学び未来に継承しなければいけないことがたくさんある。「加害と被害」の個人史に通底するのは、天皇を神とした洗脳教育の怖さ。一人一人のもろさ。国と戦争指導者の無責任体質。戦後68年。私たちの社会の本質は変わったのだろうか」
一人につき見開きで、写真1点と本文1400字で紹介する構成です。大きな判型にしたのは、写真集=写真展のイメージでモノクロ写真と向き合ってもらいたいと思ったからです。値段が高いので一人では無理というかたは、ぜひ図書館にリクエストをお願いします。また中学や高校、大学の先生たちには、ぜひ図書館に一冊入れていただきたいと願います。
◯問い合わせと予約
彩流社 Phone 03-3234-5931 〒102-0071 千代田区富士見2-2-2
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