福島と沖縄:「犠牲のシステム」と「無意識の植民地主義」
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最近、高橋哲哉著「犠牲のシステム 福島・沖縄」(集英社新書)を読んだ。著名な高橋氏が福島県いわき市で生まれ、警戒区域となった富岡町の小学校に通い、中通りや会津地方で生活したことを知った。
首相官邸前と周辺では、脱原発の集まりだけでなく、このところ沖縄の普天間基地にオスプレイを配備する計画に抗議する集まりが増えている。今のところ、両方の集まりに参加する市民はそれほど目立たないが、脱原発を求める市民の多くが、福島と沖縄に共通する「犠牲のシステム」に気づいているのではないだろうか。
高橋氏は、「原発は犠牲のシステムである。そこには犠牲にする者と、犠牲にされるものとがいる」と規定する。さらに、福島第一原発事故の第一義的な責任は、国策として原発推進にかかわってきた「原子力ムラ」にあると指摘し、市民の責任についてもこう断じている。
「原発を過疎地におしつけて電力を享受してきた(筆者を含めた)都市部の人間の責任も免れない」
加えて、高橋氏は、両者の責任は異質なもので、「問題は、犠牲のシステムそのものを止めることが肝心なのだ」と強調する。
沖縄戦で日本本土の捨て石となった沖縄について、高橋氏は、「沖縄の犠牲なしに戦後日本は成り立たなかったと言っても過言ではない」といっている。沖縄に在日米軍基地の74%が集中している事実だけとってみても、「今なお植民地主義が継続しているということではないか」と指摘する。高橋氏の指弾は厳しい。「沖縄が植民地であり、日本人が植民者であるという意識をもっている人は、おそらくほとんどいないだろう」。高橋氏はこれを「無意識の植民地主義」と呼ぶ。
同様に、高橋氏は、「原発のリスクはまず第一に福島県民が背負っているにもかかわらず、その利益は関東地方、東京電力管内で享受されている。~~これは、柏崎刈羽原発が新潟県に立地されているのと同じ構図である」「同じ構図は、関西電力の三つの原発がすべて福井県若狭湾沿岸に立地していることにも表れている」「これは、首都圏(中央)をはじめとする都市部と地方とのあいだに、一種の植民地支配関係があることを示していないだろうか。~原発の場合でも、その利益を享受している植民者側の人々は、それが植民地主義であることをふだん意識することはない」
あれほどの反対の声がありながら大飯原発が再稼働された。原発の新設増設はないといっていたはずが、大間原発の建設再開が始まった。茶番人事で始動した原子力規制委員会(田中俊一委員長)は、「安全性の確認はするが、再稼働の判断は電力事業者か担当省庁がすること」との趣旨の見解を公表した。
◯首相官邸前とその周辺 10月5日
十字架に見立てた作品を担いで歩くいわき市のアーティスト。偶然だが、背景に「原発54基 罪を省みよ」のプラカードが見える。10月5日
双葉町の原発推進スローガン「原子力未来のエネルギー」を考案した大沼勇治さん。
「ふくしま集団疎開裁判」応援メッセージをスピーチする山本太郎さん(合同庁舎前)
◯防衛省前(9月30日)と首相官邸前(10月4日)
沖縄では、県民あげての反対の声、基地ゲートを封鎖する実力行動があっても、オスプレイは配備された。死亡事故が多発し「未亡人製造機」と呼ばれているオスプレイが、本土上空も訓練ルートと使うことに驚いた国民の多くも抗議の声を上げた。にも関わらず、森元防衛大臣や野田首相は、米政府の言いなりで、オスプレイの安全性が確認されたので配備に問題がないと公言した。
《琉球新報 2012年10月7日webより引用:
米海兵隊は6日、米軍岩国基地(山口県)に残っていた垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ3機を、米軍普天間飛行場に移動させた。岩国基地に7月に搬入された全12機の沖縄配備が完了した。海兵隊は今後、普天間を拠点に歩兵部隊と一体となった訓練を実施するほか、キャンプ富士(静岡県)や岩国基地に毎月数機を派遣し、本州、四国、九州での低空飛行訓練も計画している》
防衛省正門前での抗議を体を押しつけ執拗に排除しようとする警官。
路上に置かれたプラカードも踏みつけ、拡声器の使用をやめさせようとする警官。
県鳥に指定され、希少野生動物にも指定されている沖縄本島ヤンバルの森に生きるノグチゲラ(かぶりものですが)も登場し、オスプレイ配備や高江ヘリバッド建設反対を訴える。
「オスプレイは構造的不備こそ事故の原因。オール沖縄で反対だ。配備は撤回し訓練は直ちに停止せよ」。内閣府代理人に野田首相宛の抗議文を読み上げる代表(右)。
沖縄本島北部にのみ生息する絶滅危惧種のヤンバルクイナも登場。高江の危機的状況を現地の座り込み現場を再現するかのように訴える若者たち。
◯心しておきたい高橋哲哉氏の結論
私自身の認識は、昨年3月13日にJVJA(日本ビジュアル・ジャーナリスト協会)の仲間5人と車三台で双葉町役場まで取材に入った時に目にした電信柱の看板ではじめて気づかされた。そこには「東北電力」のPR看板だけが並んでいて、原発立地自治体は東京電力ではなくて東北電力管内だと初めて知ったところから東電の電力を享受してきた自分を意識するようになっていた。
昨年6月に刊行したJVJA写真集「3・11メルトダウン」(凱風社)に収録した座談会で、私は司会進行をつとめたので、沖縄を最も取材している森住卓さんにこう問い掛けた。
山本:「原子力発電所という危険なものを地方の過疎地につくる、沖縄に米軍基地をつくる。福島と沖縄はどこか共通するところがあると思うんですけど、そのあたりどう考えていますか」
森住:「沖縄の人たちがあれだけ苦しんでいるのは、やっぱり安保だよ。エネルギー政策も安保なんだ」
改めて読み直してみたが、森住さんは問題の本質をズバリついていてさすがだ。
高橋氏は著書をこうまとめている。
「だれにも犠牲を引き受ける覚悟がなく、だれかに犠牲を押しつける権利もないとしたら、在日米軍基地についても原発についても、それを受け入れ、推進してきた国策そのものを見直すしかないのではないか」
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