被曝した牛を生かす水田放牧、「命の楽園」(浪江町)プロジェクトとは?
(写真はクリックすると拡大します)
(8月28日、写真4点追加と追記)
取材から日が経ってしまい、間延びしたが、6月末の警戒区域での取材をもう一本ブログにすると書いておきながら、諸事情から遅れてしまった。今回は、「希望の牧場」の吉沢さん、富岡町で牛を生かす松村さんに続く、警戒区域での被曝牛を生かす取り組みの第三弾。
浪江町の殺処分を拒否した畜産農家、原田良一さんの牛舎前で、放し飼いのままたくましく生き延びる牛。(浪江町、2012年2月)
原田さんの飼っていた牛たちは、一群として自宅前の牛舎周辺に留まって生きていた。定期的にエサと水を与えに通っていたために放れ牛になることはなかった。(2012年2月)
今日紹介する浪江町の畜産農家による「命の楽園」プロジェクトは、経済的価値がゼロになった被曝牛を、警戒区域で生かし続ける意味や目的が最もわかりやすく、行政の協力を取り付ける可能性の高い事例となる。単純明快、水田放牧が「命の楽園」がやっていることだ。元気で色艶の良い牛たちが、人の手が入らずに荒地と化した水田の、伸び放題の雑草をきれいに食べつくした現場を目の当たりにすると、警戒区域に残る牛たちの大いなる役割を初めて具体的に認識できた。場所は原発の北北西に9㌔弱。国道6号線に面する水田地帯の一角。
「命の楽園」は原田良一さんの水田を使って今年の3月に開始した。手前は電柵を設置中の雑草が生い茂るままの水田。向こうが30頭をこえる牛たちを囲い込んだ水田。約1週間で数枚の田圃を牛たちはペロリときれいに除草してしまう。つまり、囲い込みの場所を変えてをいくことで、相当に広い範囲の水田地帯や畑地の荒地化を、牛の力を借りて防ぐことが可能なのだ。(2012年7月1日)
「浪江町和牛改良友の会(会長は山本幸男さん)」は殺処分に反対して会員10人が協力し、今年3月に「命の楽園」を立ち上げた。ちなみに山本さんも、自分の牧場の周辺を電柵で囲って放牧を始めている。(2012年4月)
ロールの乾燥エサも時折与える。
出荷はできないが、「福島牛」のタテゴがつけられた牛。
囲い込む水田を広げるために土手の雑草を刈り、電柵を設置する原田さんと渡部典一さん。小柄なのが渡部さん。
水田の畔を草刈り機でしっかりと刈ってからでないと、電柵はショートしてしまうので、準備作業は面倒だ。だが、畜産のプロの動きは無駄が少ない。
この日、久しぶりに一時帰宅して電柵設置の手伝いをした原田さんの80歳になる父親は感慨深げだった。
「農家は畑や田んぼに出てくるのが楽しみでなあ。毎晩夢にまで見っと。荒れたままになっていると辛いなあ。ここはいい米がとれたんだが、果たして5年後に米作れっかな」
原田さんの自宅は水田の近くにある。幸運なことに、原発から9キロ北北西にありながら、自宅も水田も線量は低めだ。
空間線量は毎時0.6マイクロシーベルト以下の水田地帯。(線量計は0.58を指す)原発に近い割に不思議と低めの線量地帯だ。
「命の楽園」プロジェクトを原田さんと共に取り組む渡部さんは50代はじめ。仮設住宅で暮らしながら、自分の集落で牛たちを放し飼いにして生かしている。冬の間は定期的にエサやりに通い、30頭余りの牛たちは渡部さんの水田地帯にとどまっている。渡部さんは繁殖和牛にこだわってきた農家で、牛に対する思いは人一倍強いと感じた。
「稲作の時代から牛は農家に必要な存在だった。何の説明もなく、町からの指示で殺処分って。生まれ落ちたばかりの時から世話してきた牛たちを、簡単に一言で殺せますか?牛を水田放牧すると、牛が益畜の役割を果たすことになります」
渡部さんの集落は放射線量が高すぎて、原田さんの水田で実践する「命の楽園」プロジェクトには向かない。それを踏まえて、渡部さんは、地区ごとにその地区の牛を利用して水田や畑地で放牧することが除草になり、防犯対策にもなると考えている。
渡部さんの集落にある公民館敷地に設置された文科省のモニタリングポスト。毎時26マイクロシーベルトをこえる、帰還は絶望的な空間線量を示す。渡部さんの集落は、おそらく浪江町で最も線量が高い。(2012年7月1日)
その意味で、原田さんの水田放牧のように、人が管理するために度々立ち入っても、畜産家にとっての被曝をそれほど心配しなくても良いといえる地域とは同一視できない。とはいえ、畜産家が自らの被曝は覚悟の上で、ここまで生かしてきて、今になって行政が殺処分できる理由づけはないだろう。行政は畜産家と共に、牛はしっかりと囲い込んで生かす道のために予算づけをすべきではないのだろうか。
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