首相官邸前で、野田政権に奪われた「主権在民」を実践する市民
(写真はクリックすると拡大します)
うまく時間が取れずに福井市での大飯原発再稼働抗議デモが先になり、掲載が後先になってしまった。忘れてはならない首相官邸前の再稼働に抗議する市民の姿をしっかりと記録に留めておきたい。参加人数がどれほど膨れ上がろうとも、外国メディアを除き、テレビ新聞などの大マスコミのほとんどは、取材したとしても事実をしっかりと報道していないからだ。
今回掲載する写真は、一部はTwitter上で紹介しているが、5月から6月にかけての留まるところを知らないような盛り上がりを振り返るためにも、私が撮影した5日間(5月18日、6月7日、8日、13日、15日)のみに限定されるが掲載したい。なお、ゴールデンウイーク前の抗議集会は「再稼働絶対反対首相官邸前抗議集会(4月27日)No to Restart Nuclear Power Plants in front of prime minister's office」のタイトルでアップしてあります。ご覧ください。
◯5月18日:参加者は約1000人。
脱原発デモには何度も参加してきた30代の男性。
5歳の男の子を肩車し、「大飯原発再稼働絶対反対」のプラカードを手にするご主人。奥さんが「何の心配もない野原や空き地や山や川をこれ以上子どもたちから奪わないでください」とスピーチ。官邸前に取材に行く度に顔を合わせる一家。
◯6月7日:官邸前の抗議参加者は多くはなかった。というのも、仕事で取材できなかったが、昼間に重要なイベントが終わっていたから。この日、福島の女性たち10人が内閣府を訪問し大飯原発の再稼働をやめるよう求める野田首相宛ての要望書を提出し、「原発いらない福島の女たち」の呼びかけで大飯原発再稼働に抗議の意思を表すダイ・イン(Die-in)が行われた。内閣府で要望書を渡し、一人一人が思いを伝えるシーンから始まる動画はぜひご覧ください。→「再稼働はやめて!~官邸前で女たちが抗議のダイイン」(OurPlanetTV)
・要望書はこちら:「原発いらない福島の女たち」が官邸に提出した要望書。「(略)口先だけの安全宣言でつくろい、関西電力大飯原子力発電所の再稼働を急ぐのは、暴挙以外のなにものでもありません。大飯原発の安全対策は事故を起こした福島第一原発にすら劣るとも聞いています。同原発の再稼働が強行されるなら、たくさんのものを失い、今も苦しんでいる福島県民の心の傷に塩を塗るものです。わたしたちは大飯原発の再稼働を許しません。大飯原発の再稼働はしないで下さい」(2012年6月7日)
要望書を提出した一人の佐藤幸子さんは、官邸前でのやりとりを報告。「ニューヨークの国連前で野田首相に向かって卑怯者呼ばわりした佐藤幸子ですと自己紹介しました。内閣府に入りましたが、聞くだけで何も答えられない人が出てくる。こんなことのために仕事休んでお金払ってこなければいけないんですか」「野田首相、国会は福島でやってください。みなさんで住んでくださいと言ってきました。子どもの命を守れないでもう政治をやる資格ないですよ。(要望書を受け取った担当者が、最後に伝え忘れるかもしれないと言ったため)、みんなブチ切れました。もう一回小学校から勉強し直してこい。時間の無駄だ、とどなってしまいました。若い子が福島で声をあげられない。子どもたちがどれだけ傷ついているか。福島に来ることが福島の現状を知る第一歩なんです。官僚は上からの指示を待たないでください。自分で考えてください。何が大切なのか」
警戒区域の富岡町から避難している木田節子さん。「息子は原発ジプシーです。現役の原発作業員の人から東電に出向させたらダメだといわれました。東電は社員をヒバクさせたくないから、社員を下請けに回し、足りなくなった部分をメーカーや下請けで働いている人を東電に出向させる。断ったら会社に仕事をやらないと恫喝まがいのやり方をすると言われました」「原発は作業員の被爆がなくてはならない作業です。作業員の命を何とも思わないあなたたちを許しません。野田総理、私の家をあなたにやるから、あそこに住め。事故が収束したというなら双葉郡に国会議事堂を置け。それができないんだったら、原発を止めろ!」
常連の火炎瓶テツさん。渋い声で参加者をのせるのがうまい。「電気、腹が減ったからといって食えるわけじゃない。電気、ノドが乾いたからといって飲めるものじゃない。この国は主権在民の国。あなたが守るべきは人間なんですよ。この国であなたが守るべきは命でしょう。守るべきは電気じゃない。電気はこの世の全てじゃない。反対、大飯原発再稼働反対。国民の声を聞け。再稼働反対!」
◯6月8日:野田首相が首相官邸の会見で「国民生活を守る責務がある。大飯発電所3、4号機を再起動すべき」と明言した。参加者約4000人と、最大規模となった。怒りが渦巻いていた。
車椅子のヤマダさん(65歳)。「悲しくてしょうがない。泣きながら叫んでいる。3・11前から、ぼくらが原発に反対してこなかった責任がある。懺悔です」
突然設置された道路工事を告知する看板。「傷んだ歩道をなおす工事」(6月下旬から12月21日まで)を予定しています、とある。もちろん、歩道が補修工事が必要なほど傷んでいるわけではない。市民の抗議集会を排除しようというあからさまな狙いが見え見えだ。裏を返せば、官邸前抗議行動がつぶしたいほど効果を上げていることを意味するのではないか。強制的排除が逆効果となることをおそれ、官邸から遠ざけようと狙っているに違いない。
◯6月13日:「再稼働再考を求める院内集会」が多数の市民も参加して開かれた(民主党の原発PT主催:呼びかけ人代表は荒井聡参議院議員、増子輝彦参議院議員)。約40名が参加し、野田首相による「国民の安全を守るための再稼働」会見は、「原発安全神話復活宣言」だと、6項目の批判見解を公表して厳しく批判した。
また、衆参両院の民主党議員合わせて122人が署名したことを氏名とともに公開した。(6月19日現在124名)
(呼びかけ人と署名議員計122名。2012年6月13日現在)
「野田さんはどんな責任を取ってくれるというのでしょうか。汚染はそう簡単に消えません。総理を辞任したからといって放射能は無くなりません」「あと、ぜひ新党を結成していただきたいと思います」。たくさんの国会議員を前に、落ち着き払って短いスピーチをした脱原発アイドルの藤波心ちゃん。発言も態度も16歳の高校生とは住む世界が違うようだ。
民主党原発PTの主要メンバーとして活動し、ツイッターでの情報発信に熱心な谷岡議員が、院内集会に参加した脱原発アイドルの藤波心ちゃんと会話。「うちの大学にぜひ来てほしい」と谷岡議員。活動報告サイトはこちら
官邸前抗議参加者は多くはなかったが、谷岡議員と三宅雪子議員の二人が参加してスピーチした。
谷岡議員も短いスピーチ。
「弁護士でフリーjジャーナリストの日隅一雄さんが昨日お亡くなりになりました。政府東電統合記者会見などに100日以上通って私たちに貴重な情報をもたらしてくれました。最後のツイッターの一つが、千葉4区から出ている民主党の議員を落選させてほしいというものでした。船橋、千葉4区にデモをかけましょう」(翻訳家で口承文芸研究家の池田香代子さん。脱原発杉並で活動)
「収束作業労働者の使い捨て許さない」。原発作業員の被ばくを心配するプラカードは珍しい。
「千葉4区の有権者として恥ずかしい」。「先週、野田さんの地元で脱原発のデモに行ってきました。駅前で中学生くらいの男の子がオレも原発に反対だと言いながら通りすぎていきました」(野田首相の選挙区、千葉県船橋市からきた陽子さん)
「私たちがこの国の主権者です。主役なのです。再稼働されたとしても私たちは決してひるみません。私たちは決してあきらめない。大人は議員も国民も3・11で大失敗を犯してしまった。54基もの原発を作らせてしまったのは私たちの敗北です。このツケを大人の責任として払うためには、次の世代の選挙権のない子どもたちのために地震の度に原発を心配しなくて良い日本を作ることではないですか。野田さんはもういりません。あなたを国会に送ることは許さない」。杉並脱原発有象無象集団の星、はなさんは、6月24日に、野田首相の選挙区に杉並の有象無象仲間が脱原発デモに参上すると宣言。
静岡市から一人で初めて官邸前抗議に参加しスピーチもした小松崎さん。3・11直後の報道がおかしいと感じるところから原発の問題を考えるようになり、一人でも行動しはじめたという。
ドラムの皮に「原発いらねえ!!NO NUKES!」と書いて抗議に参加した早川さん。すでに4度話したというだけあって、激しくやさしく激しくやさしくのテンポが堂にいる。
反原発活動歴30年をこえ著書もある、83歳になる斉藤美智子さん。コートに脱原発メッセージ。「忘れたか広島長崎ヒバク都市 危険胎める原発林立」「原子力55基の核発電 デンキと共に死の灰ふやしつ」
◯6月15日:とうとう1万人をこえる参加者が官邸間の歩道上にあふれた(主催者発表11000人)。この日、福井県議会とおおい町が再稼働に同意し、西川県知事が16日に上京して野田首相に再稼働に同意することを伝えることが決まったからだ。この日は、「さようなら原発1000万人署名」運動に取り組む大江健三郎さんや沢地久枝さんらが首相官邸を訪れ、署名約754万人分(15日現在)の一部を藤村修官房長官に提出し、大飯原発再稼働に反対すると伝えた。参議院では原発事故被災者支援法案が全会一致で可決。
この日も参加した富岡町の木田節子さん。「政治家の正体見たり。国民守らず電力会社を守る・・のだ。恥ずかしくないですか」
「いづれやめちゃう首相が責任なんて取りようがないじゃないか。再稼働NO!」
初登場した「再稼働ありき」5人組の「遺影」写真。Twitterに掲載したところ、賛否が分かれたが、民主主義とは相反する、極めて無謀で無法な手法で再稼働を決断した野田政権幹部に対する怒りの表現方法の一つだといえる。テレビ新聞などの国内大手メディアで使われるかは別にして、海外メディアの目を引く奇抜なアイデア。知る限りではロイター通信社が配信している。
通常は午後6時から開始する官邸前抗議集会だが、7時前にそれまでの記録をこえて、続々と市民が駆けつけた。
「再稼働反対!」を叫び続ける、野田首相の選挙区から参加した女性。
繰り返し参加しているようで、「大飯原発の再稼働に断固反対」のメッセージが破れはじめている。
「SHAME ON YOU PUPPET 恥を知れ傀儡人形」「野田!退け!」
◯番外:6月12日の午後8時過ぎに、弁護士・新聞記者として政府・東電の責任を追及してきた日隅一雄さんが末期がんで亡くなった。「主権在民」を貫いた日隅さんの遺影を掲げて抗議に参加する人もいた。最期の著書が「主権者」は誰か――原発事故から考える」(岩波ブックレット)。
「市民が情報共有して主権を行使できる社会にし、日本に実質的な民主主義を根付かせなくてはいけない」「今の記者はおとなしすぎる」「官僚は常にメディアをコントロールしようとする。勝たなきゃだめだ」(東京新聞6月13日追悼記事から引用)
◯取材ノート:
言うまでもないが、憲法の前文で規定している「主権在民」は行使することで生きた憲法となる。「3・11」後、政府や大手メディアがメルトダウンし、経団連のような経済効率一辺倒の企業倫理が破綻した時代の変革期に、国民主権を政府や官僚や儲け主義の企業に知らしめることをせず、私たちが見て見ぬふりを続ければ、憲法で保証された基本的人権そのものが有名無実と化してしまう瀬戸際をむかえているのだと思う。
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