警戒区域で生きる松村直登さんと子牛の石松の誕生Part1 A photo reportage about Mr.Matsumura who stays in No entry zone in Tomioka-machi & a birth of a premature calf.
(写真はクリックすると拡大します)
全域が警戒区域となっている富岡町の自宅で生活し続ける松村直登さん(52歳)の生活の一旦を見せてもらった。自宅は福島第一原発から南南西に約12㌔の辺り。松村さんが生まれ育った自宅は、周辺に民家はまばらな森の中にあった。電気も水道もない状態で、飼い犬のアキと拾ってきた放浪癖のあるタロウの二匹、それに二羽のダチョウが飼われていた。(追記:ネコもいることを忘れていた)撮影は4月18~19日。
左がタロウで、右が甲斐犬のアキ。(空間線量は1.7マイクロシーベルト/時)
自宅に着いてまもなく、松村さんの携帯に連絡が入り、同じ町内で牛のお産の現場に行くことになった。そこからは松村さん自身も未経験の牛の出産から、生まれたばかりの未熟児の子牛の面倒をみるという予想外の展開となっていった。
お産の現場は3月に放れ牛の移動の手伝いで来たことがあり、富岡町役場の近くだった。民間の創生水という会社が水を使った「除染実験」目的のためにトラックで何度も運んだ囲い込みだった。片隅でガリガリに痩せ細った母牛が泥の中に倒れ込んだまま子牛を産もうとしていた。この柵の牛たちに水とエサをやるボランティアをかって出ている遠藤カズオさんが、難産の子牛を一人では引っ張り出せないとのことで、松村さんが救援に駆けつけたわけだ。(追記:この民間会社による除染実験は、遠藤さんによるとまだ開始されていないようだ。会社のWebを見ても情報の更新も少ないし中身がない。囲い込んでも比較実験が開始されないということは、計画が頓挫したのではないか}
二人で前足に縛ったロープを何度か引っ張ると、子牛がやっと飛び出た。人のお産は仕事柄、自宅出産や助産院で3度撮影した経験があるので、この事態にあせる気持ちはなかった。ただ、タイミングだけは外したくなかった。
松村さんはワラを引いた上に、産まれたばかりの子牛を置き直した。独力では向きを変えることもできないほどに、未熟で立とうとする本能も余力もなかった。放っておいたら、母牛と子牛も共倒れだったと思える状況といえた。もちろん、現場は警戒区域で獣医さんが飛んでくるところではない。
時間の経過とともに、子牛の表情から希望が感じられるようになった。
母牛は骨がガリガリで、オッパイが張っていないため、子牛に飲ませようと松村さんがほ乳瓶に初乳を絞った。ほんのわずかしか出なかったが。
遠藤さんが子牛の口を開いて初乳を何とか飲ませることに成功した。申請中のNPO「ガッツ福島」(代表は遠藤さん)にちなんで、子牛を「石松」と名付けたのは遠藤さんだ。
子牛の「石松」が誕生した囲い込みの牛たち。40頭ほどいる。創生水という民間会社による除染実験の目的で殺処分は免れている。(追記:空間線量は5マイクロシーベルト/j時をこえる。囲い込みに隣接する畜産農家の家の庭先では、50マイクロシーベルト/時をこえてしまう雨水が流れ込む地面もある)
倒れ込んだままで、子牛にオッパイをやろうとすることもなく、身動きしなかった母牛を、松村さんたちが懸命に引っ張り起こして、柵の外に連れ出した。胎盤が出てきたのはしばらくしてからだった。いくらか落ち着いたのか、エサのワラをやっても食欲を示さなかった母牛だが自ら青草を食べ始めた。他の牛たちに角で突かれて皮がむけた傷あとが身体中にあった。エサを満足に食べることができなかったことを物語っていた。ここまででお産から3時間経過している。
母と子の動きを見つめる3人。だが、母牛はオッパイをやろうとする素振りはない。子牛の「石松」は、立つのもやっとのことで、オッパイを探ろうとする本能は希薄で素振りがない。
一計を案じ、松村さんは母牛をつないで、石松にオッパイを吸わせようと股の間に何度か入れてみたがダメだった。石松は前足の間にオッパイがあると勘違いの素振りばかりだった。松村さんたちが「石松」を懸命に生かそうとしたが、「石松」の運命を暗示していたいるようだった。
母牛がなめたりして、身体のぬめりがすっかりとれた「石松」だが。
一気に紹介したいところだが、つづきはPart2にて。
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コメント
松村さんを応援しています。
すべての牛が救われますように。
転載させてください。
投稿: 夜空 | 2012年5月 1日 (火) 20:32
ご連絡ありがとうございます。
何の断りもなく全てを転載しても連絡もしないで平然としている人も時折いますので、その点は感謝します。
転載については、取材した内容を広くたくさんの人に正確に伝えることがフォトジャーナリストとしての使命だと思ってブログ、ツイッター、HPなどで公開しています。ですが、全部を転載されたら、私のようなフリーランスで仕事をしている身分も不安定なものの著作権さえも有名無実のものとなってしまいます。
そこで、以下の条件を理解していただける場合に限り、転載を承諾します。
写真は2点までの使用とする。本文も一部のみの転載を可能とする。必ず、撮影者名を入れ、ブログ名にリンクを貼ってください。例えば続きは以下のサイトで・・・、というような扱いで。
なお、私は松村さんを支援する動物愛護関係のNPOや支援団体とは無縁の立場で取材させていただき、報道させていただいてます。その点はご了解ください。
投稿: 山本 | 2012年5月 1日 (火) 22:15
兵庫県に住む真宗大谷派僧侶後藤由美子と申します。
記事を拝読し、この一年の総括のような悲しみに胸が震えました。
私たちが虐げてきたいのちに対する懺悔です。あのやせ細った母牛、おっぱいも飲めず、数日で逝ってしまった石松のことはわすれません。石松のつぶらな瞳を写真に収めて下さってありがとうございます。そしてあの二頭の後ろ姿。
また松村さんが石松を抱きかかえて連れて行く写真はあまりにすてきで心に沁み渡るものでした。松村さんという人間存在に救われつつも、離れた立場の者として問われていることに苦悩します。
こういう悲惨な状況になった時に、女性、こどもがどういう状況に追いやられるのかという問題もこの母牛と石松は教えていますね。
「いのちを大切にする」世界に生きたいと思いをあらたにしました。
伝えて下さってありがとうございます。
この内容は何か手に取りやすい写真豊富な冊子のようなものになるといいのにとおもいます。
毎月寺報を出しているのですが(400部程の輪転機印刷の無料配布)、こちらの記事を紹介させていただけないでしょうか?ネット環境のない方に少しでも私が心動かされた、大事だと思った事を伝えています。
3.11以降は本当に宗教とは何なのか、考えを深めさせられました。遅すぎることではありますが。なにとぞ許可していただけましたらありがたく存じます。
投稿: ごとうゆみこ | 2012年5月 4日 (金) 10:25
ごとうゆみこ様
ご丁寧で真摯なコメントありがとうございます。
お問い合わせの件は、使用目的など了解し納得できるものです。ご返答は直接メールにて送信させていただきます。
山本
投稿: 山本 | 2012年5月 5日 (土) 12:11
すみません、コメントの返信、本日拝見させていただきました。
今回すべてをそのまま転載してしまいました。
申し訳ございませんでした。
以後、気をつけさせていただきます。
かなり皆さん、こちらの記事には関心を持たれたようです。記事にしていただいて有難うございました。
家畜たちの状況はまだまだ大変です。
今は放れ牛達はすべて富岡の松村さんのところで面倒を見てくださっているようです。
今後も松村さん、そして福島の牛などの取材記事などよろしくお願いいたします。
夜空拝。
投稿: 夜空 | 2012年5月 6日 (日) 02:31
夜空さま
私がお願いしたようにしてください。
無断で勝手にブログ内容を全部転載することを私は許可していません。
あなたの行為によって、他の方が同じような考えで、思慮なくあなたのブログを転載し公開することにつながります。
「以後きをつける」のではなく、いまからブログ内容を削除してください。
私がお願いした条件であれば大丈夫といっているのです。
もし、変更されないようであれば、これからの私のブログの無断引用、転載をお断りすることになります。
松村さんが放れ牛たちを囲い込んで面倒みるのはこれからのことですよね。
投稿: 山本 | 2012年5月 8日 (火) 13:53
頭が下がる思いです。
投稿: チョコ | 2012年5月13日 (日) 20:04