どこを計っても高い大熊町内(警戒区域)の放射線量
(写真はクリックすると拡大します)(12月31日、一部追記改訂)
◯警戒区域の大熊町と町長選の結果から何が見えるのか?
12月某日、警戒区域となっている大熊町に入って、あちこち撮影し測定してきた。一言でいうと、いままで測定してきた場所や地域よりも全体的に極めて高い数値の連続に圧倒された。原発に隣り合っていることもあるが、大熊町役場で実験的除染が始まっていて、来年からは本格的な除染が始まると報道されていることに大きな違和感を実感した。2011年さいごのブログになるかもしれないが、写真を多用して紹介したい。
その前に、原発立地自治体で全町が警戒区域となり、住民全員が避難している大熊町の町長選挙と町議会選挙が行われたのは11月20日。現職の渡辺利綱氏(64)=無所属=が再選された。「大熊町長選挙開票結果」。
「有権者の一票には復興にかける思いが込められている。原発事故で全域が警戒区域の同県大熊町の町長選は「除染を進め町に戻る」と訴えた現職が、「集団移住を検討」とした新人を破った」。(東京新聞)
「除染して町へ帰る」と訴えた現職の当選に単なる驚き以上のある種の「狂気」を感じた。収束のめどさえ立たない原発を立地している大熊町の放射線量の高さは誰でも知っていることだからだ。測定ヶ所を限定した文科省による土壌調査でプルトニウムまで検出されている。どれほど我が家と我が町に愛着と先祖からの継承を絶やしたくないという強い願いがあったとしても、帰還して日常生活が再建できる土地だと思っているのだろうか。私自身の率直な疑問だった。
渡辺利綱氏3,451票、木幡仁氏2,343票。その差は1108票。現職の圧勝とまではいえないが、当日の有権者の40%が渡辺氏に投票したことに驚かざるをえない。大熊町の住民たちは、すでに一時帰宅を一度や二度は終えているはずで、自ら測定した放射線量の高さを熟知していると思われた。にもかかわらず、「除染すれば故郷へ帰って元の生活がやりなおせる」と本気で思っているのだろうか。誰よりも責任があるのは「除染すれば帰れる」と住民たちに公約した渡辺町長自身とその取り巻きではないのか。
12月16日に野田首相は、福島第1原発の原子炉が「冷温停止状態」になったとして、「事故収束宣言」をした。そして18日、政府は「原発事故の避難区域について、避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3区域に再編する方針を地元自治体に伝達」した。(毎日新聞 2011年12月29日 地方版)
いったい、政府が原発周辺自治体を「除染すれば帰郷できます」と説得してまわっているのか?それとも、自治体首長らが「除染して何としても帰郷」できるように、人間の手に負えない現実を無視した要求を政府に要請しているのか?無駄な除染に莫大な税金を投入することで潤うのは、除染ビジネスを公的に請け負う原発推進にかかわってきた独法や企業だと、誰でも知っているのに。
◯大熊町の主立った場所で測定した
田村市から大熊町に入る境界線の峠は雪が積もっていた。
牛たちが徘徊していた。原発事故後に生まれたと思われる子牛もいる。
大熊町役場で除染する作業員。手にするのは草刈り機、熊手、クワなど。
毎時12マイクロシーベルトをこえる大熊町役場の敷地。地表に置くと16マイクロシーベルトだった。大熊町役場での除染は民間業者が請け負ってやっている。自衛隊は大熊町と双葉町役場での除染には関わらない判断をした。おそらく、線量が高すぎて、隊員を被ばくさせても除染の意味が見いだせないと判断したのだろうと想像する。原発から西南西5㌔。
双葉病院のゲート。多くの患者が避難の混乱のさなかに亡くなり悲劇の舞台となった病院。最後の避難となったのが3月15日。原発から西南西5㌔。
証言/福島・双葉病院の真相/「置き去り」誤解広まる(河北新報12月22日)
大熊町駅前商店街。毎時11マイクロシーベルトをこえる。不思議なことに、猫が一匹歩いていた。
国道6号線、大熊町夫沢中央台交差点。西方向の道路の地震による地割れがすごい。原発から西2.5㌔。
同交差点の一角。アスファルト上で毎時54マイクロシーベルトをこえる。角にはローソンがあった。
同交差点のコンビニ側の草むらの上で計ると毎時64マイクロシーベルトという、極めて高い数値を示した。
「ようこそ 福島第一原子力発電所へ 直進 この先1.5km」の看板。
大熊町夫沢中央台交差点から西へ向かって100mほどの用水路上は、毎時66マイクロシーベルト近い。この日の測定での最大値。要するに夫沢中央台交差点とその周辺が高濃度に放射能汚染されていることが伺える。
原発から西6㌔辺りの水田。毎時14マイクロシーベルトをこえる。
一時帰宅したご家族の居間には、成人式写真を載せた大熊町町報2月号がそのままだった。室内は毎時2.5マイクロシーベルト前後を示した。家の裏は林になっていて、林側の窓際は毎時5マイクロシーベルトをこえた。庭先は毎時6~7マイクロシーベルト。原発から西南西7㌔。
この家の雨樋の下で測定すると、毎時35マイクロシーベルト以上。
この民家の熟した柿を放射能測定検査に出すために採取した。その結果は次の通り。
(◯柿の放射能測定)
この柿約1kgから放射性セシウムが、1568ベクレル/kg(セシウム134が902ベクレル、137が666ベクレル)検出された。国の暫定基準値は500ベクレル。その3倍以上を検出した。現在の空間線量が毎時6~7マイクロシーベルトの民家で成長した柿がこの値を示すことに注目すべき。警戒区域内や30~40㌔圏内の民家の柿は収穫されずに実をつけたままとなっているが、当然だろうと改めて実感する。測定は「農民連」食品分析センター。
なお、政府は暫定基準値を見直し、来年4月からは暫定基準値の5分の1に引き下げるようだ。一般食品でいえば、500ベクレルか100ベクレルとなり、牛乳の200ベクレルが50に、飲料水の200ベクレルが10に下げられることになるようだ。本来は原発事故前の厳しい基準にもっと早く戻すべきだと思うが。
大熊町と田村市との境界の道路端。雪の上での空間線量は毎時1.6マイクロシーベルト。落葉の上に降った雪で測定すると毎時3マイクロシーベルトをこえた。
◯取材後記
この取材はある家族の一時帰宅に同行した際のものだが、約2時間少々の滞在で私の積算数値は20マイクロシーベルト程度だった。仮に除染作業員が8時間、大熊町役場の線量程度の場所での作業で留まるとして、一日160マイクロシーベルトあびることになる。10日間で1.6ミリシーベルト、一月で約4ミリシーベルト。6ヶ月従事して24ミリシーベルト。これ以外に宿舎や食べ物飲み物などからの内部被ばくも換算してみるとどうなるか???原発敷地内での被ばく労働者と何の違いもないのが除染作業員の労働実態となるのではないかと想像する。
(野田首相が原発事故「収束宣言」をしたスピーチで、1兆円をこえる予算を用意し、「現場で除染に従事する作業員を4月めどに3万人とする」と公言したことを思い出してほしい。)
私は何を言いたいのか。町内を測定して改めて実感したのは、遠く離れていても異常に線量の高い飯舘村の数倍も、全体的に汚染度が高いことが空間線量からだけでもわかる。各地での実験的除染で明らかになっているのは、どうやっても半減しない結果。移住(再定住)しか村民の残る道はないと批判されている飯舘村村長さえも帰還するのは2年後と公言していた。ここまで放射能に深く汚染された大熊町に、除染してでも帰ることを11月の町長選で町民に訴え当選した渡辺利綱町長の人間性を疑問視せざるをえない。また、そうした町長を諭すことができない(諭そうとしないのか?)行政幹部らも同様だ。
町民の命と安全と健康を優先することで得られる結論が「除染して帰郷」となるとは私には思えない。
ある町民の話では、町長は「早く除染して帰ろう」宗教と同じだと影でいわれているという。
12月24日の東京新聞こちら特報部の記事は、これほど高線量の大熊町に、なぜ渡辺町長が拘るのかという理由の一旦が鋭く指摘されていた。記事のタイトルは、『政府の「除染と帰郷」方針は東電と原子力ムラ、財務省の救済狙いか』。ネット上ではイントロ部分だけしか載っていないが、記者の伝えたい本音があるので以下に引用したい。
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政府は年間放射線量が20ミリシーベルト未満の地域を「居住できる」と宣言した。「除染と帰郷」を強調して、疎開や移住の選択を狭めるという従来の方針を踏襲した。これに対し、避難住民の意見は一色でないが、生活の場の自由な選択肢は保証されてしかるべきだ。だが、そうなっていないのはなぜか。背景には東京電力と原子力ムラ、財務省の「救済」を優先する政府の狙いが透けて見える。
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具体的な内容は見出しだけ紹介してもかなり伝わる:
「政府の『除染+帰郷』方針」から「透ける『救済』相手」。「居住制限緩和 推進派がまとめ役」。「東京電力 疎開巨費抑えたい」。「原発再稼働したい 原子力ムラ」「大手銀行守りたい 財務省」。
居住制限緩和を提案した作業部会のまとめ役は、ガチガチの推進派として知られる近藤駿介(原子力委員会委員長)が指名した長瀧重信(長崎大)氏と前川和彦(東大)氏。
「当面の除染費用は1兆円」。除染モデル事業を担当するのは「原子力機構」。「再委託を受けるのは全国でこれまで原子炉建屋を造ってきた大手ゼネコン」。身内による安上がり除染でも効果があると盛んにアピール。
経済人の間では、巨額の疎開費用にならないように賠償スキームを維持し、東電に債権を持つ大手銀行を財務官僚が保護したいという思惑ありとまとめている。この辺りが読者に読みとってほしい大きなポイントだ。
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要するに、大熊町町長の「除染して帰郷」への拘りは、東電と政府、財界の望むところなのかもしれない。大熊町住民に限らないが、被災者の生活再建など眼中にない、ということかもしれない。無駄とわかっていて除染して失われるものは何か。膨大な税金と、私が指摘するまでもないが、「宙ぶらりん」とされた住民たちの折れそうな心と原発事故後の人生だ。
◯警戒区域内の現実とチェルノブイリ現地取材。渡辺大熊町長に密着した動画推奨リンク(12月18日放送)
フジテレビ報道取材班が捕らえた、福島第一原発20km圏内の光景
『特命報道記者X 2011』
http://www.youtube.com/watch?v=UrJxffmh38c
http://www.youtube.com/watch?v=UC4l_OGo3hQ
http://www.youtube.com/watch?v=8SsUTxa1lGk
http://www.youtube.com/watch?v=6eLuHI1UK80(故郷に帰りたい。「原発と歩んだ町」の苦悩)←渡辺町長が当選後に初めて町に戻って視察する映像あり。
◯取材活動支援のお願い
フォトジャーナリスト 山本宗補活動支援
ジャーナリストの活動を支えてください。
・郵便振替口座(加入者名 山本宗補)
00180-1-572729
・銀行振込
城南信用金庫
店番036 普通口座 ヤマモトムネスケ 口座番号340130
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コメント
警戒区域の町に帰る人の考え方同じ町民でめお前馬鹿かと思っている。
今だに東電が元の町に戻してくれっぺ東電は神様だっぺの考え方。
警戒区域の中で事故後生まれた家畜に耳がない。犬猫初めウサギに耳がないで報道陣撮影。子牛も無い。貴方の町にも耳がない家畜が生まれる可能性あり。
隠蔽の国と東電。
これから人間にも真ん中にあるの鼻でしょうおらそんなのながっぺの時代です。
投稿: 福島五等兵 | 2012年1月 9日 (月) 02:20
福島五等兵さま
コメントありがとうございます。
ウサギや家畜の耳がないという情報。できれば具体的な事例を教えていただければありがたいのですが。ウサギの件は聞いていますが、牛やブタ、犬ネコの事例があれば、取材して報道したいものです。
投稿: 山本 | 2012年1月 9日 (月) 11:57