本気になれば国会議員も動かせる?!(児玉龍彦教授の参考人答弁)
まず以下を読んでみてほしい。
「原爆による放射能の残存量と、原発から放出されたものの残存量は1年経って、原爆が
1000分の1程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は10分の1程度にしかならない。つまり今回の福島原発の問題はチェルノブイリ事故と同様、原爆数十個分に相当する量と、原爆汚染よりもずっと大量の残存物を放出したということが、まず考える前提になります」。
これはネット上で話題沸騰の児玉龍彦東大アイソトープ総合センター長による、衆議院厚生労働委員会での参考人答弁の中から拾い出したもの。児玉教授は、7月27日 (水)に開かれた委員会で、「放射線の健康への影響」の参考人の一人として 熱弁をふるい、結びの一言がこれ以上ないくらいに強烈だった。
「七万人の人が自宅を離れて彷徨っているときに、国会は一体何をやっているのですか」。
この結びの一言に、私は思わずジーンときてしまった。まさしく私自身の気持ちそのままだった。原発事故と大津波による被災者そっちのけで、政局ばかりに熱を上げる与野党の国民無視に怒りを覚える多くの国民の気持ちを代弁したものだったからだ。国会の場で、国会議員数十人を前にして、これほど率直な批判を大学教授が赤裸々に述べた事実に対する素直な感動でもある。参考人でも、本気になれば議員の気持ちを動かすことができることを証明してくれたともいえる。
(ちなみに他の参考人は次のとおり。明石真言:独立行政法人放射線医学総合研究所理事 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会放射性物質対策部会委員、唐木英明:日本学術会議副会長 東京大学名誉教授、長瀧重信:長崎大学名誉教授、沢田昭二:名古屋大学名誉教授、児玉龍彦:東京大学先端科学技術研究センター教授 東京大学アイソトープ総合センター長、今中哲二:京都大学原子炉実験所助教)
だが、不思議なことに、テレビ新聞などのマスコミは、児玉教授の答弁をほとんど無視した模様だ。重要な指摘があると思わなかったのだろうか。Youtubeに動画が載っているので誰でも手軽に児玉教授の発言を見て自ら確かめてほしい。これは最後まで見るに値する。
以下に個人的に重要なポイントだと思った点を拾い出してみる。
「枝野官房長官が、さしあたり健康にあまり問題がないということをおっしゃいましたが、私はじっさいにこのときにこれは大変なことになると思いました。(略)
ところが今回の福島原発の事故というのは、100キロ圏で5マイクロシーベルト、200キロ圏で0.5マイクロシーベルト、さらにそれを越えて、足柄から静岡のお茶にまで汚染が及んでいることは、今日、すべてのみなさんがご存じの通りであります。
われわれが放射線障害をみるときには総量を見ます。それでは政府と東京電力はいったい今回の福島原発事故の総量がどれぐらいであるかはっきりとした報告はまったくしていません」。
「今回の稲ワラの問題です。例えば岩手の藤原町では、稲ワラ5万7千ベクレルpkg、宮城県の大崎1万7千ベクレルpkg、南相馬市10万6千pkg、白河市9万7千pkg、岩手6万4千pkgと
いうことで、この数値はけして同心円上にはいかない。どこでどう落ちているかということは、その時の天候、また例えばその物質が水を吸い上げたかどうかにかかります」。
「先程から食品検査と言われていますが、ゲルマニウムカウンターというのではなしに、今日ではもっとイメージングベースの測定器が、はるかにたくさん半導体で開発されています。なぜ政府はそれを全面的に応用してやろうとして、全国に作るためにお金を使わないのか。3カ月経ってそのようなことが全く行われていないことに私は満身の怒りを表明します」。
「内部被曝の一番大きな問題は癌です。癌がなぜ起きるかというと、DNAの切断を行います。ただしご存知のように、DNAというのは二重らせんですから、二重のときは非常に安定的です。それが細胞分裂するときは、二重らせんが1本になって2倍になり、4本になります。この過程のところがもの凄く危険です。そのために妊婦の胎児、それから幼い子ども、成長期の増殖の盛んな細胞に対しては、放射線障害は非常な危険性を持ちます」。
「プルトニウムを飲んでも大丈夫という東大教授がいると聞いて、私はびっくりしましたが、α(アルファ)線は最も危険な物質であります」。
これは大橋弘忠東京大学大学院教授が、玄海原発3号機でのプルサーマル計画についての公開討論会の席上での公式発言を指す(2005年12月25日)
「南相馬でも起こっていることはまったくそうでして、20キロ、30キロという分け方はぜんぜん意味が無くて、幼稚園ごとに測っていかないと全然ダメです。それで現在、20キロから30キロ圏にバスをたてて、1700人の子どもが行っていますが、実際には南相馬で中心地区は海側で、学校の7割は比較的線量は低いです。ところが30キロ以遠の飯館村に近い方の学校にスクールバスで毎日100万円かけて、子どもが強制的に移動させられています。このような事態は一刻も早くやめさせてください」。
南相馬市や飯舘村の放射線量などを取材したブログ記事はこちらをクリックして参照してください。また、南相馬市の海側と山側の線量の大きな違いがわかり易い写真を以下に二枚載せます。
南相馬市鹿島地区の海よりの一帯。毎時0.5マイクロシーベルト平均(6月26日)
原町区大原地区辺り。飯舘村との境に近づくにつてて線量が上がる。この水田地帯で毎時2マイクロシーベルト。海寄りの4~5倍となり、作付けは自粛されているようだった。
「全国の国立大学のアイソトープセンターには、ゲルマニウムをはじめ最新鋭の機種持っているところはたくさんあります。そういうところが手足を縛られたままで、どうやって、国民の総力をあげて子どもを守れるでしょうか。これは国会の完全なる怠慢であります」。
「第三番目、国策として土壌汚染を除染する技術に、民間の力を結集して下さい」。以下、児玉教授は放射線除染に対してノウハウを持つ民間会社名をいくつか上げ、「こういうものを結集して、ただちに現地に除染研究センターを作って」除染事業を立ち上げるべきと力説した。教授は次のことを危惧するからだった。「実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみの公共事業になりかねないいう危惧を私は強くもっています」。
そして答弁の結びが「7万人が彷徨っているときに、国会は一体何をやっているのですか」の怒りの拳である。児玉教授の参考人答弁の文字興しはこちらに全文があります。明日に向けて(208)放射線の健康への影響について(児玉龍彦教授国会発言)改訂版(守田敏也さんのブログ)
(追記:意見陳述時の資料が「児玉龍彦国会発表詳細」http://t.co/0rP89lF として、児玉さんの息子さん@a_kodamaによって共有用公開されています。講演内容が図式化されていて分かり易く、日米共同調査というような詳細なデータも存在。ダウンロード強くオススメ)
動画のサイトにはスゴイ数のコメントが載っていて、児玉先生の話を聞いて初めて深刻さを知ることができた、などというような的外れな書き込みも見受けられる。が、事故当初からネット情報を活用してきた者にしてみれば、内部被曝によってDNAがどのように傷つけられるか、α線と肝臓ガンや白血病、膀胱ガンとの関連、除染コスト、民間会社の除染ノウハウの活用などの部分以外は、すでに明白になっていることだ。ただ、児玉先生の発言の重要性は国会議員を前にしての重みだ。事故から4ヶ月も過ぎて何を今更と感じた人も多いようだが、それは児玉教授のような参考人を招致するのに4ヶ月もかかった議員連中のノーテンキに他ならないと思う。
児玉発言で思い出すのは事故から2ヶ月後、やはり国会の参考人として地震学者の石橋克彦先生のキツイ発言だ。「地震列島の日本における本質的安全は原発が存在しないこと。日本の原発はフランス・ドイツと違って地震付き原発である」など。これは5月23日の参議院行政監視委員会に小出裕章、後藤政志、石橋克彦、孫正義各氏が参考人として招致されたときの石橋先生の意見陳述。要するに、事故から2ヶ月後にこの顔ぶれを参考人招致した委員会の議員と、今になって児玉教授や今中助教らを参考人招致した委員会の議員たちの危機感と能力差の違いではないかと思う。
最後に付け加えるまでもないが、ネット情報にはテレビ新聞報道が伝えようとしない、国民の命に関しての重要な情報や資料が手軽に、素早く入手できる大きな利点がある。その意味で、twitterでもfacebookでも、ブログ検索でもいいから、良いと思った情報は積極的に取りに行ってほしいものだ。全てのものがメルトダウンしつつあるこの時代に、それしか身を守る術はないのではないだろうか。
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