パパラギの里(石雲禅寺)
「鎮魂の読経」で紹介した小原宗鑑さんを、先月末に盛岡市郊外にあるお寺に訪ねた。
宗鑑さんと尼僧の慈光さんは、2週間あまりの被災地鎮魂行脚から帰寺していた。二人とも、どことなくすがすがしさで一杯の印象を受けた。
石雲禅寺を訪ねるのは二度目だ。前回は二人が被災地で行脚している間に伺った。津波被災地の瓦礫の間を歩き、読経し続ける二人のバックグランドを知りたかったからだ。どんなお寺なのか、寺はどのような活動をしているのかを知り、二人に関心を持った人たちに知ってほしいと思ったのだ。
石雲禅寺は岩手県盛岡市郊外の、石川啄木で知られる渋民の地の入り口にある。深く冠雪した岩手山の裾野にあたる素晴らしい自然の中だ。寺の建物は細長い4階建。だが、急斜面を利用しているので、玄関は3階になるおもしろい設計だ。
それはともかく、石雲禅寺はNPO法人「パパラギの里」http://www.paparaginosato.org/を運営し、10数人の老若男女が禅的な共同生活を営んでいる。寺もパパラギの里も一帯で切り離せない。それでいて、寺としての座禅堂もある。(5月6日訂正:庫裏は昨年の火事で残念ながら消失)
私がお寺を再訪したのは、実は宗鑑さんと慈光さんが、日常の修行生活に戻り、地方での
托鉢行脚に出発するためだ。宗鑑さんは二ヶ月近い托鉢行に出たまま、しばらくは戻らないという。お二人がお寺にいる時の写真はまだ撮っていない。そうしたこともあり、東京から盛岡まで車を走らせた。
(その後は、大槌町で曹洞宗寺院のご住職を訪ね、釜石市内や大船渡市などを経て、福島県南相馬市の真言宗寺院のご住職の取材をして帰京)
前回の取材で、宗鑑さんの関心や趣味の範囲が幅広いことを知ったが、彼が宮沢賢治や岡本太郎好きであり、高校生の頃から音楽もやっているとわかった。部屋の壁には「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」の書が飾られ、アフリカの太鼓やギターが置かれていて、得度していなければ、20代の普通の若者の部屋に思えるところが愉快だった。
この日、宗鑑さんは750ccのオートバイに、テント、食糧、托鉢用の鉢、網代笠などを積み、大きなバッグパックを背負って四国に向かった。同様に、慈光さんは寝泊りする軽自動車に必要なものを積み、山梨県へ托鉢に向かった。宗鑑さんが寺に戻るのは夏ごろになるという。
ちなみに「パパラギ」とは隠れたベストセラーのタイトルで、20数年前に読んで感動した本だ。ひとことでいうと、南の島の酋長による文明批判。誰が書いたのかは知らないが、深い味わいのある名著だ。ありとあらゆるものを浪費することで成り立つ日本や先進国の人々の精神の貧困さをやんわりと揶揄する内容だと記憶する。ここから、石雲禅寺と「パパラギの里」の創建理念などが想像できる。
托鉢し、自活用の野菜を育てて生きる清貧な日常生活から、人間やすべての生きとし生けるもの、大木や瓦礫と化した住宅などの津波によって失われた形あるものの鎮魂を懇ろに弔った宗鑑さんと慈光さんの、いてもたってもいられない心の動きが伺いしれる。禅的な「知足」の生活は、宗派仏教=伝統仏教という枠からはみ出したくてもはみ出せない僧侶の、本来のあるべき生き方を示していると思う。
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